アンジェ・ポステコグルー監督の退任が正式発表されてから2週間、報道が出てからはすでに1か月が経とうとしている中で、ついに後任監督の名前が挙がった。
オーストラリアのWebメディア「The Asian Games」は、オーストラリア人のケヴィン・マスカットが横浜FMの新監督としての準備に入ったと報じ、
www.theasiangame.net
この独占的なスクープをソースとして、日本国内の各メディアも後を追うように報道し始めている。
経歴としては、メルボルンビクトリーでリーグ優勝を2回達成。このときはもともと監督がボスで、マスカット氏はアシスタントコーチという間柄だった。ボスが代表監督に就任したことで、後任として昇格している。ボスのサッカーをよく知る人物だと言っていい。
直近では日本人選手が多く在籍することで知られるベルギーのシント・トロイデンの監督を務めたが成績不振から1年をもたずに解任されている。現在は開催中のEURO(欧州選手権)でオーストラリアのテレビ解説をしているようだ。
ボスのセルティック監督就任にあたって、マスカット氏をコーチとして迎え入れるかもしれないという報道もあった。だがCFGの一員でもある横浜の監督ポストのほうが魅力的なのかもしれない。
マスカット氏、略歴
ケヴィン・マスカット氏は、イングランド出身で1973年生まれの47歳。豪州、英国、マルタの国籍を持っているそうだ(ソースはWikipedia)。
選手キャリアは豪州でスタートし、その後イングランドに渡り、ウルヴァーハンプトンで5年プレーしたほか、スコットランドでのプレー経験もある。(ボスの競セルティックの仇敵であるレンジャーズに1年)その後再びイングランドに戻り、ミルウォールでは主将を務めている。
その後、のちに監督を務めることになるメルボルン・ビクトリーでキャリアの後半6年を過ごし、11年に38歳で引退した。豪州代表でAマッチ46試合に出場。W杯の出場はないが、01年日韓W杯の前年のコンフェデ杯では、準決勝の日本戦に先発で出場している。(昔のファンなら覚えているかもしれない、とんでもない雨の中で行われ、横浜国際総合競技場の水はけの良さを世界に知らしめた試合。中田英寿のフリーキックで日本が勝利した)
アンジェ・ポステコグルー(ボス)がメルボルンの監督に就任したのが2012年。どっちが先か前後関係がはっきりしないが、マスカットはアシスタントコーチとしてボスのもとでコーチ人生をスタートしているわけだ。
13年、ボスが豪州代表監督に就任するとともに、マスカットが監督へ昇格。特筆すべきは、その後19年まで6シーズン長期政権を務めたという事実だろう。
その間、Aリーグ制覇2回。「選手としても監督としても優勝」というのは大きな功績と言える。ほぼ毎年、ACLに出場しているのでJクラブとの対戦経験も豊富である。
18年には、本田圭佑がメルボルンに加入してきたため「本田圭佑を指導したマスカット氏」などと書いているメディアがある。最初は、素晴らしい選手だなどと絶賛していたが、本田の怪我、カンボジア代表監督の活動などもあった。1年で本田が退団したことからも、良い関係が長く続いたかは疑問だ。
ベルギーでは成功できず
実はマスカット氏は、2018年には浦和の監督候補として名前が挙がったことがある。
浦和レッズの後任監督にオーストラリアのケビン・マスカット氏が浮上と現地メディアが報じる|[浦議]浦和レッズについて議論するページ
このときは結局、大槻組長が2か月間しのいで、オリヴェイラ監督につないだため実現しなかった。
20年6月に、ベルギー・シントトロイデンの監督就任。だが結果だけを言えば、半年間で2勝に終わり成績低迷により解任されている。
ただ、その後もチームの成績は改善せず、翌年(今季)も二桁順位を脱出できずに終わっている。もともと補強に積極的でなく台所は苦しかったようだ。攻撃一辺倒で、守備がめちゃくちゃだったという話も聞いたが、あれ、2018年のヨコハマも似たようなものだった…?
ちなみにシントは、直近6シーズンで9人の監督を起用しているということも見逃せない。冨安、遠藤航、鎌田らがここをきっかけにステップアップを果たしており、日本人に重要なクラブであることは間違いないのだが、マスカット氏のことでいえば、半年で解任されたことはなんとも言えない。
マスカット氏起用のメリット
まずはボスのサッカーをよく知っていること、ベルギーで自身も4-3-3のフォーメーションを採用していたこと、ボールを保持して自らが試合を支配するというサッカーの志向を持っていること、だろう。「マリノスの継続」という点では適任者の一人と言っていいのではないだろうか。
それから日本人選手のマネジメント経験、対戦経験があるのもメリットと言えるかもしれない。
さらに豪州出身監督のため、ジョン・ハッチンソンコーチをはじめとした首脳陣、松崎通訳も含め現在のチームを継続できる点。
起用の心配な点
まずはこの「継続できる」が裏目に出る可能性といったところだろうか。マンネリ、スケールダウンを招く恐れ。メルボルンでの実績を見れば、ボスの真似をするわけではないだろうが、継承は進化の妨げになることはよくある話。ここまで積み上げてきたものをぶっ壊すでもなく、新たな革命に進むでもなく、中庸的な選択ということは言えるかもしれない。
また豪州ではともかく、欧州での評価は芳しくない。一つには上記の守備面での問題が原因のようだ。
www.football-zone.net
これはシントを解任される前の記事だが、結構ボロカスに書かれている。
守備組織がない、ビルドアップができない、いやチームとしてのていを為していない…など。末期のチームによくある批評だけれども、これは心配。監督交代以降に、鈴木優磨は得点量産体制に入っているので、あながち外れてもいないかも。
あと、現役時代は相当な荒くれもので、めちゃくちゃ出場停止受けていたようだ。…ギレルメ?
監督になってからは激高したとか、そんなエピソードは出てこなかったけれども。
結論:マリノスを信じよう!
鳥栖戦の試合ぶりがよかっただけに、今の体制で続けてほしいという声も聞かれる。
監督交代は常にチャンスとリスクの隣りあわせだ。それにボスの後任は「誰がなっても難しい」と、在任中から言われていた。稀代のモチベーターでもあったからだ。
だが今のマリノス、強化部の慧眼は恐ろしいほど当たる。いや、当たるという表現もおかしい。的確である。
ならば、信じよう。隔離期間を経て、五輪期間中には指導が始まるとされる。チームを進化させる絶好のチャンスである。
マスカットの語源は、Musk(じゃ香)らしい。いい香りがするといいけれど。知らんけど。