5月最終日。午後休を取って銀座にあるサロンに向かった。
マリサポ界隈でも噂になっている「リラクゼーション」を体験するためだ。サロン、エステなどと聞くと女性のもののようで、中年男性としては気後れしてしまうと思うが、ここは今後マリノスサポーターの聖地になるかもしれない。
多くの読者はご存知かもしれない。このサロンのオーナーの名前は小椋祥平という。2014年まで横浜FMに在籍したMFである。
プレースタイルは闘志あふれる守備、対人の強さ、粘り強さ。現マリノスで言えば喜田拓也が最もそれに近いかもしれない。ACミランのガットゥーゾ、ユベントスのダービッツなど、00年代のイタリアの強豪には必ず強烈なボランチがいた。小椋もその系譜にいる存在だ。人呼んでマムシの祥平。そのあだ名が物語る。
水戸で頭角を現して、08年~14年までマリノスに在籍後、G大阪、山形に移籍し、最後は甲府で2019年シーズン終了後にスパイクを脱いでいる。そのため小椋は現在も甲府に住まいを持ち、銀座の店舗と甲府を往復する暮らしを送っている。
そんな生活の中で小椋は、私のようないちファンからのアポイント希望を快く承諾してくれた。「サロンにいる日程に合わせて取材に来てくれれば。ぜひお話ししましょうと言ってくれたのである。
小椋におもしろい話を聞かせてもらった。せっかくだから、アスリート(選手)のキャリアのこと、自身とマリノスのこと、小椋自身のビジネスのことなどを紹介していきたい。
そして小椋に会いたいという方は、
↑↑↑から予約をしてみてほしい。小椋は「マリサポの方、大歓迎します!」と言ってくれていた。
(小椋さんが在店の日は事前に確認してくださいね)
本記事では、「Re:room」で受けたサービスの体験レポートも掲載するので参考になったら嬉しい。
マムシが、優しい…?
銀座の駅からほど近い場所に店舗はある。控えめに言って一等地だ。エレベーターから恐る恐る店内へ進むと、笑顔の小椋に出迎えられて面食らう。
激しいプレースタイルの残像がこちらには残っているためか、ちょっと身構えていた。最近のファンには小椋の名前は馴染みが薄いかもしれないが、名ボランチだった。その小椋が慣れない手つきでお茶を出してくれるのでますます緊張してしまうが、小椋は気さくそのものだ。「よく言われるですよね。思ったより怖くないって。怖くなんてないですよ(笑)。今日はなんでも話しますよ」と。
現役の小椋は、華麗なプレーはしなかった。いや自らに課していなかった。才能があったわけでもない、ヘタクソと自らを振り返る小椋が、18年プロとして生き抜いた理由。そして、今後の夢や、マリノスへの想い、いろいろ聞きたいことはある。だが、まずはこのサロンの話だ。
小椋はなぜこのサロンを作ったか
「Re:room」のコンセプトは、疲労回復、リカバリーだ。そこにたどり着いた経緯を小椋は語る。
「現役時代、いかに疲労を抜くかということはいろいろ工夫してきました。睡眠や食事はもちろん大事。でも今って、身体を鍛えることばかり注目されていますよね。甲府にもトレーニングジムがどんどんオープンしています。なんか”意識高い”じゃないけど、鍛えるばかりでは疲れてしまう。ところが疲れを取るための選択肢は意外に少ない。マッサージ、整骨院などで身体をケアするのもいいけれど、もっと自分自身をいたわってほしい、それには僕が現役のときに「どう休んできたか?」が役に立つのではと思ったのです」
まずは小椋によるカウンセリングで、現在の調子を可視化してもらえる。たった1分の測定で、ストレスや血管の健康状態を測定してくれるというのだ。
測定結果はなかなか良好で小椋に褒められた。「あれ、いえ。仕事のストレスがすごいはずなんだけど、あれ」
「お仕事は大変でしょうけどストレス耐性が強いという結果が出ていますね。これは個人差ありますから、いいことですよ」
もっと周りに優しくしてほしいのに、結局私は強いらしい。でも、せっかくだから、疲労回復させていただこう。
小椋が開発した提供メニューは、大きく分けて2種類
「Re:room」が提供するメニューは小椋自身が開発したものだ。
1つはパワーナップ、積極的仮眠などと訳される今注目の疲労回復法である。もう1つは、酸素カプセルに入って酸素を吸入することで疲労のたまりにくい身体を作っていくというもの。
(素人の書いているブログなので、上記の記述は薬事法的にアウトかもしれない。ただし宣伝ではなく、個人の感想、体験記という前提でお読みいただきたい)
小椋は独自に本を読み、Webサイトで研究をして、このプログラムにたどり着いた。
「僕はマッサージや柔道整復師のような資格は持っていないから、まず自分が現役時代に使っていた機械を集めてみたらどうだろうかと。酸素カプセル、足の加圧とか。そのうえで疲労について調べたら、”脳の疲労”に行きついた。
脳の疲労を掘り下げているうちに”パワーナップ”という言葉が出てきてがでてきて、要するにお昼寝が大事だということなんです。
本当は眠るだけで意味があるけど、それだけじゃもったいないから、足マッサージやミストもやって、最高のお昼寝にしてもらおうと、色々組み合わせたんですよ」
パワーナップ体験:「初めての場所で眠れるわけ…」
「パワーナップ」が推奨されているのは、30分以内に短時間の仮眠をとることでさまざまなプラス効果が期待されるため。
集中力や記憶力が向上し、ストレス軽減、作業効率がアップするというし、心臓疾患や認知症の予防効果という指摘もある。
仮眠なので30分程度。それ以上だと寝覚めが悪く、かえって疲れを感じてしまったり、夜眠れなくなってしまったりということがあるのだそうだ。
その眠りのさじ加減を調整するため、アイマスクをつけて光を遮断し、海外で使用されているパワーナップ用のBGMをヘッドフォンから流してもらう。また小椋が独自に調合したというミストをただよわせてリラックス促進も忘れない。椅子の角度も小椋なりの研究の結果だ。
眠る直前にカフェインを取るのも寝覚めをよくするのに効果的ということを調べ、緑茶を飲ませてくれるのだという。
「足を加圧するのは本来パワーナップと直接関係のない僕のオリジナルです。30分のうち、前半の15分加圧することで疲労回復にも、その後の睡眠の質にもいいだろうと考えました。あとこのブランケット、実はすごいんです。かけるだけで筋肉が柔らかくなり、可動域が増すんです。ほらね?このあたり、すべて現役時代に試していたこと。一般の方にも有効だろうなということを取り入れました」
特殊なブランケットをかけられた筆者は、普段はできないはずの後ろ手に両肘をくっつけることができるようになっていて、驚くしかなかった。
小椋に手とり足とり説明を受け、30分後に起こしますからねと言われ、いざ入眠。波の音が心地よく、アイマスクのおかげで闇の中だ。足の加圧は痛気持ちいい。
こんな初めての場所で、これだけ刺激を受けて、眠れるはずがないと思っていた。
あ、眠らなくちゃ。ここまでしてもらったのに眠れませんでしたとは言いたくない。そうこうしているうちに、加圧が止まった。もう15分経過したのか・・・・。まずい。
・・・次の瞬間、小椋に肩をたたかれた。眠れなか・・・いや、眠っていた。
このストンと落ちる感覚、いきなり覚醒する感覚がパワーナップの魅力なのだろう。寝起きのけだるさはない、でも何かリフレッシュしていて、動きたくなる衝動にかられる。
最近は外資系だけでなく、国内企業にも就業時間内にパワーナップを導入する企業が現れてきているそうだ。しかも実際に作業効率が上がったとされるデータも取れている。
そのうえで「Re:room」のようにより質の高い仮眠を提供しようという動きは、今後、かなり需要が増す気がする。
酸素カプセル体験:「ベッカム、小椋、そして俺」
続いて、酸素カプセルにも体験させてもらった。
イングランド代表時代のベッカムが使用して、骨折の怪我から短期間で復帰するのに役立ったなどと言われ、話題になったのがもう20年ほど前だ。小椋も現役時代にはよく使用して、試合後の疲労回復に役立てたという。
こちらも、小椋のこだわりで、アロマを滴下したガーゼを顔の近くに置いてから、カプセルの中に入る。酸素に香りはないので、柑橘系の香りがあるとなんとなくリラックスできそうだ。
酸素カプセルは一度の使用で、直ちに効果が実感かは分からない。一般的な口コミを見ると、頭がすっきりした、疲労が取れた、コリがなくなったなどのプラスの意見も多く聞く。
気持ちの良いパワーナップの後だと、どうしても狭い空間に閉じこもった感覚は生まれてしまう。また気圧が急に変わるので、飛行機の着陸のときのような耳抜きが必要となる。
最初は密閉空間に入るので緊張したが、外の音も入ってこないので、30分、ぼーっとしながら酸素を吸う感覚はいい。これもまたリフレッシュできそうだ。身体がなんだか軽くなった…気がする。
面白かった話が1つある。酸素カプセルは外から開けてもらわないと脱出できない。既定の時間が終わり、圧が抜けていく。ところが、小椋が来てくれない…?
外では話し声がかすかに聞こえる。別のお客さんが来たようだ。それくらい待つのは当然だが、密閉空間で、しかも自分で出られないという焦りが生まれとてつもなく長い時間に感じてしまうのだ。
だ、出してくれ…。小椋に教わっていた非常時に外部と通話するインターホンに思わず手をかけたが返事がない。
しょうがない、待つしかないかと腹を括って待っていたら、申し訳なさそうに小椋が扉を開けてくれた。「ごめんなさい、終わった後、気圧の関係でしばらく待たないといけないんです」 それは先に言ってください(笑)と、マンマーカー小椋にツッコむ貴重な体験。
現役後にさまざまな選択肢を見せたい、小椋の思い
酸素カプセルから脱出したとき、店内には5人ほどのお客さんが小椋を待っていた。一気に混み合ってきたのだ。え、平日なのにすごいですね。
「いえ、今日はたまたま。正直いつもこれくらい来ていただけるとありがたいんですけど」
と小椋はあっけらかんと笑った。オープンしたのは20年9月、コロナはむしろ今年のほうが店舗経営に影響を与えている。
「本当は疲れと癒すという意味では会社帰りなどにも寄ってほしいし、いろんなイベントもしたいので、なかなか順調とは言えないです。こんなに気軽に移動できないなら横浜に作ればよかったかなとも思います(笑)。サポーターの存在は本当にありがたいですよね、本当に」
思いついたままにここまで来たと、引退後の自身を振り返る。19年シーズンの小椋は甲府でリーグ戦41試合に出場している。「一番試合に出た選手」だった。そのため、チームが若返りを図りたいという狙いもあって契約延長がないと知ったときは大いに驚いた。
まだまだやれる自信もあったし、オファーも来るだろうと予測していた。しかし誘ってくれたのはJ3のチームのみだった。
「とても熱心に誘ってくれたし、おそらくチームとしては破格のオファーだったはず。でもJ3の環境で1年やり続けるのを想像することができなかったです。ただ、直接口説かれてしまったらきっと、がんばろうという気持ちになってしまう自分の性格もあって、お会いするのもお断りしました」
サッカー選手としてのキャリアに決着をつけた瞬間だった。バリバリ現役のつもりだったので、そこからようやく真剣に考え始める。ただ指導者の道はあまり考えなかったという。
「正直、引退後に何しようかを考える時間は少なかったですね。ただS級ライセンス保持者ですら、余るほどいる中で指導者というのはなんか自分にはピンと来なかったんです。だったら、何か今の若い選手にも「そんな道があるのか、そんなことできるのか」という選択肢を示したいなと思いました。だから現役時代に選手として培ったものを生かすという発想をもっていたんです」
「小椋に会いに来る」で今はいい
身体を鍛えるだけでなくいたわるという発想とオリジナルの手法を取り入れたサロン。もっと広げていきたいという思いも持っている。
「今日こうやってわざわざ来てくれたように小椋がおもしろいことやっている、小椋と話してみたいという動機でもなんでもいいです。マリノスや他のチームのサポーター、関係者も温かいので、小椋祥平という看板はうまく使いたい。でもそこから、良さを知ってもらってリピーターになってもらうための、価値を感じていただきたいです」
小椋は現役時代も、誰かをそのまま真似てはだめだという思いがあった。
「それでは本家を超えられない。ただのコピーになってしまうから。ずっとプレーでも意識してきた」という。
だから今のビジネスも、自分なりの工夫を加えて、コピーじゃない何かをやるんですね、小椋さんらしいのかもしれないと質問すると、
「あ、確かに…。確かにそうですね。言われて初めて気づきました。なるほどね」と屈託なく笑った。
こういうところが小椋の魅力。サロンもまだまだ小椋自身とともに成長していくのだろうなと確信した。
次回の記事では、小椋の人生観、マリノスのサッカーをどう見ているか、退団の真相などにも迫っていく。
ぜひ「Re:room」予約してみてくださいね。