マリノスにシャーレを 2024

横浜F・マリノスのスポンサーを目指して脱サラした頭のおかしい3級審判のブログです

半年ぶりに公式戦の笛を吹いた話

趣味が高じて、とまでは言わないが、今年1月に3級審判の昇級試験に合格した。普通のお父さん審判は4級資格を取る。公式戦ならば、それが小学生の市区町村レベルであっても、この4級審判の資格が必要となる。ただ半日の講習を受ければ、誰でも左胸にレフェリーのワッペンをつけることができる。

だが3級になるには、ペーパーと体力テストを受けなくてはならないし、私のようにただ単にJリーグを見るのが好きで、子供のサッカーを送迎するレベルのお父さんは普通昇級試験など受けない。4級と3級の差は大きく、2級はもっともっと上にいる。なおJリーグの審判員は、1級資格を持つスーパーエリート達であり、普段ネット上で、うげー○○審判かよ、とか八百長だなとか、誹謗中傷まがいな言葉に晒されているのはさらにその上の国際主審たちであることも多い。天上人であることは殊更強調しておきたい。

 

恥ずかしいのだが、私も以前は、○○審判はファウルの基準が曖昧だの、下手くそだの言ってしまったことがあるが、審判員の端くれになってからは一切言わなくなった。あの人たちの凄さをほんの少しだけ思い知ったからだ。

 

今年1月の3級昇進後、ほどなく公式戦シーズンの到来を待たずにコロナでそれどころではなくなった。小学校レベルでは、この秋の公式戦の開催すら断念した市町村もあるという。が、息子シュンスケの所属する23区のとある区は、無観客試合の措置、選手全員の2週間検温、指導者(コーチ)がその後の試合の審判を兼任するのは不可など、厳しいプロトコルを決めた上での区大会実施に踏み切った。万一、大会から感染者が出るようなことがあれば直ちに全学年、全大会打ち切りも含む決意に満ちたものだ。

 

小学校の区大会なのに、審判は4人制。慣習なんでしょうな。おいおい、J1と同じである。U12は全国大会も8人制サッカーなので、1人制の審判が一般的なのだが。したがって対戦チームから2人ずつお父さんを出し合って(上述の通り、今大会は監督やコーチは審判員を兼務できない)、片方のチームが主審と第4審、もう片方が副審2人を担当するというのが習慣である。

 

3級審判になって8ヶ月。初めての公式戦がついに来た。息子チームの1回戦、その直後に行われる2年生チームの試合を担当することになった。私の3級受験の動機の一つに、相手チームに舐められたくないというのがあった。実は、その人が何級の資格保持者なのかはワッペンの色を見れば一目で分かる。J1中継では、金色つまり1級か、さらに上位の国際資格を示す「FIFA」マークしかあり得ない。4級は緑、3級は薄いブルーなので、そんな審判ヒエラルキーは胸元を見れば明確なのだ。相撲の世界のような番付至上主義ではないが「3級かね、ふむ、僕もだよ」というベテランっぽい審判からの視線は、この日、何度も感じることとなった。

 

さて、担当試合の15分前には相手チームのお父さんとの顔合わせで、主審、副審の割り当てを決める。目の前では互いの息子たちが試合をしているのだから、なかなか面白いシチュエーションではある。以前にはライバルチームとの決勝戦で同点の状態でこの顔合わせをしたこともある。緊迫した中で和やかに打ち合わせをしていたが、我が軍の勝ち越しゴールに思わず「よし!」と口走ってしまい、微妙というか不穏な空気にしてしまったこともある。気遣いが足りなかったが、ラストパスを出したのはウチの息子だったんだ。すまんな。我が国史上最高と言われるファンタジスタと同じ名前にしてしまって、本当にすまんな。

 

この日は、相手チームのお二人も、自チームのもう一人も皆が緑ワッペンだったこともあり、相手の方が私の胸の色を見るなり、あっ…上級者やという顔色になった。舐められたくないという私の動機は見事にいきなり達成され、当然のように主審に推挙されたわけである。直前まで、自チームのもう一人が「主審やりますよ」とか覚悟を決めてたくせに、逃げやがったのはここだけの話だ。

 

3級審判としての公式戦デビュー、当然だが4級でも私より経験豊富で上手い人はいくらだっている。だがこの胸の誇りをかけて、笛を吹くしかない。

無観客試合…。独特の緊張感がある。一応は練習試合でも腕慣らしはしてきたが、やはり公式戦は違う。小学2年であっても、春がなかった分公式戦は1年ぶりだという重みもある。1回戦ながら、両チームとも4強または8強に入るくらいの力がある好カードでもある。

 

主審の仕事としては、いろいろある。15分ハーフの試合で飲水タイムも忘れずに取らないといけない。その分の時間はアディショナルタイムに足すことも忘れない。コイントスで陣地を選ぶべきチームのキャプテンが悩み込んでしまい、全然決断してくれない。どうやら入場直前にキャプテンと言われた初めての体験のようだ。いや、陣地を決めてもらえないのは私も初めてだ。

 

小2だとまだまだお団子サッカー。ラグビーでいうところのモールのような状態がしばしば起こる。この時に誰かが相手の足を蹴ったとしても見切れない、正直。素人審判なりに次のプレーを予測して、ポジションを変えるのだが、低学年はなかなか常識が通用しない。えっ、そこで空振りっすか…。えっ、そっち蹴ります…? 8歳の動きに惑わされ、振り回されるO-40。

 

試合はロースコアでお互いに攻め合う内容。そうすると、片方のパパコーチらしき帯同者がヒートアップし始めてしまったのが、ピッチ中央にいてもわかる。

「おい!足蹴ってるよ!」

「ファール!ファール!!」

(スローインが相手ボールだと分かり)「えーっ?!」

「ちゃんと見てよー!!」とか、全部聞こえる。たぶん普段なら親たちがワーワー、キャーキャー言うから審判の耳には届かないはずの声。

うーん。ベンチに警告出そうか…。でも険悪にはしたくないからじっと我慢。淡々と試合を進める。

 

我ながら流れの中で、相手チームへのPKをしっかり判定できたのは良かった。ダンゴ、控えめに言っても密集なのだが、エリア内でスライディングがアフター気味に入ってしまい攻撃側が転倒。あっ、PKじゃないかと認知する前に、毅然とペナルティスポットを指差す私。選手が重なって、ベンチから見づらかったのは間違いないが、自軍がPKを与えてしまう場面だったが、パパコーチからのクレームはなかった。西村雄一ばりのドヤァ。

ただ低学年は、キッカー以外エリア内に入ってはいけないとか、その辺もちろん知らないので、えーと、誰?誰?キッカーは誰なの?とか、再開の笛を吹くまでが大変…!

 

で、「陣地を選んでくれなかったキャプテン」がこのPKを豪快に外し、その後、30分の試合は1-1でタイムアップを迎える。延長戦なしのトーナメントなので、こないだのルヴァン杯の横浜FM対札幌のように、即PK戦である。正しい用語では、ペナルティマークからのキックによる勝敗の決定である。あぁ、予期せぬ残業だったが、ゼロックスのような展開にはならず規定の3人が蹴って勝敗はついたのだった。けれど低学年なので、決着した瞬間に勝ったチームも自分たちが勝ったことに気付いていないのには脱力した。

 

ちなみに異議の多いパパコーチは、PK戦が何人制かも把握されておられなかった。そういうことだから、ジャッジに文句を連発するのかもしれない。私は一生懸命吹いた。どっちのボールかを間違えたのもあったかもしれないし、ファールにすべきプレーを流してしまったのもあるだろう。ファールスローに気づいた副審の合図を見逃して流してしまったのも一度あった。でも、一生懸命、息子よりも年下の選手たちにもリスペクトの気持ちを持って接した。

 

だが、あのコーチに正しいリスペクトはあったろうか。そうでないと、私は感じてしまった。久しぶりの審判をまっとうできて本当に楽しかったが、何かわだかまりは残った。

 

この話にはまだ、続きがある。

 

私の担当試合の前、すなわち息子たちの試合ではもっと不慣れな副審がいた。申し訳ないが明らかに誤審と分かるオフサイドの適用ミス。それも連発されてしまい、息子チームは大いに不利益を被った。オフサイドラインの後ろから飛び出してきた選手が、オフサイドラインの向こうでボールを触るとオフサイドになる。もうめちゃくちゃだ。

 

だが。

 

だが、審判の判定は絶対。そんな副審のジャッジを信用できなくなった主審は途中から自分の眼だけを頼る。オフサイドの判定、タッチラインを割ったときにどちらのボールかを副審に委ねることができなくなるということは主審にとっては本当に辛い。何やってもオフサイドを取られる子供たちも辛い。そんな審判を派遣した、さらに前の試合のチームに対して怒りを感じたのは確か。息子チームのコーチは、どこがオフサイドなのか!と遠巻きに怒鳴る。ベンチ側の副審に聞こえよがしに、後半勝負でしょうがないよ!こっちの副審はちゃんと見てくれるからね!と、選手たちに言い出す始末だ。

 

コーチの行為も到底許されるものではない。審判へのリスペクトを示す模範的な行動が求められる立場であるコーチがそれをやってしまえば、子供たちの心に審判へのリスペクトが育まれるはずがない。家に帰ってきた息子も、副審に対して憤っていたし、コーチが怒るのも当然だと言っていた。

 

それでも、ダメなものはダメだ。ひどい判定にはその審判と、その人をアサインした人に責任がある。だが恨んでも仕方がない。誰かが裁かなければゲームは成り立たない。それに、抗議するにしてもリスペクトをもって抗議しなければならないと息子には伝えた。私はU-8の選手にもリスペクトをもって接したつもりだ。その気持ちで準備をし、規則を読み込み、前日の飲酒を慎んだ。

 

私の抱いたわだかまりは、試合後、その夜の飲酒とともに溶けていった。連盟のホームページにはその日の試合結果、1-1(PK3-2)とだけ記されている。そこには記されないディテールを私は審判日誌に簡単に記す。次はもっと公平に、公正に。少しだけカッコつけたい。

 

審判のことを褒めてほしいとは言わない。サッカーに対する愛や、競技、選手へのリスペクトを感じ取っていただきたい。ハーフタイム中のポカリと、試合後のビールを差し入れてあげてほしい。一緒にがんばろう。