交差点で君がたっていても、もう今は見つけられないかもしれないーー。
aikoがそんな至高で別離のラブソング「アンドロメダ」を歌ったのは2003年だという。
aiko- 『アンドロメダ』music video
日韓W杯で列島の熱狂が覚めやらぬ頃。今や4つ目の星を掴んだマリノスの「胸の誇り」が1から2に増える、連覇が始まる年のこと。
あんなに燃え盛るような恋をした二人の記憶が忘却の彼方へと消えていくせつないラブソング。
あんなに好きだったチームのことを忘れていくサポーターもいるし、レギュラーとして君臨した絶対的中心選手の心が離れていく様を歌っているようにも聞こえる。
2020年、おじさんになった私がそんな解釈をしたのはなぜだろうか。
今だからもう一度読み返して!あの名著
「トリコロール新時代」エルゴラッソで横浜FMの番記者を務める菊地正典氏が書いた、15年ぶりのリーグ優勝を果たすまでのドキュメントである。特にポステコグルー監督が就任して以降、試行錯誤の2018年シーズンとの対比によって物語は進んでいく。こんなブログまで好き好んで読んでくださる諸氏のことだから、さぞや同書は読みあさっただろう。でももう一度取り出していただきたい。
掲題の大津祐樹。2018年にマリノス加入。彼のために割かれたページが取り立てて多いわけではない。その後に出て来る喜田拓也は1章(200ページの書籍のうち50ページが喜田拓也の文章である!)が費やされるのに対し、大津のそれは14ページ。厳密に言うと「ポステコグルー。信念の指揮官」という第1章の中に出て来る中項目が「大津祐樹、献身のムードメーカー」なのでなんだかちょっと変な構成ではある。
大津祐樹の特長とは
一言で言えば「あの人がやっているんだから俺らが手を抜くわけにはいかないでしょ」という広瀬陸斗のコメントに大津の貢献が集約されている。
自分が先発で試合に出たら、やる自信はある。実際に途中出場で結果を出した試合も数知れない。だがそのことよりもチームが勝つことの方が優先される。
20代前半の大津は、世代の先頭を走る存在で、21歳でドイツへの移籍を果たす。オランダに渡った後は本田も背負ったフェンロの10番を担い、ロンドン五輪でチームの中心として活躍した後、13年には日本代表デビュー。だがアキレス腱断裂の大怪我に泣く。帰国した15年シーズンからは古巣の柏で10番を背負う。順風満帆であり続けたわけではなく、場面場面で苦労の道を選んできたからだろうか。スピードタイプの選手だったころならば、仲川輝人やエリキを相手にしてでもウィングのポジションを奪えたかもしれない。が、ポステコグルー監督が就任したマリノスに求められるウィング像とはちょっと違う。ではトップか、インサイドハーフか、はたまたボランチか。怪我が無ければなどと言っても仕方ない。
ゴリゴリなフィジカル勝負もいとわないプレースタイルの変革を自らに課して、そこで生き残りを図ってきた。それでもなお先発できるチャンスは限られている。先発で出たくないわけがない。サッカー選手の開花期は短い。なおさらだ。
突然、私の話で恐縮です
私。社会人になってまもなく20年、仕事に没頭してきた20代、30代。家庭を顧みずとか、過労死ラインを超えてとか、まあモチベーションをマリノスのハイラインが如く、高く保っていたので当時はあまり問題視していなかったが、労働環境としては黒に近い。昨今の働き方改革の波で多少変わってきたところはあるが、まだ灰色と黒色の間くらいかな。
それなりにレギュラーとして活躍していた時期もある。トップチームにあげられたのも同期の中で早かったし、将来を嘱望されていた時期もある。ポジションはボランチかな、センターバックかな。対人守備は強いけど、スピードに難があるのと、攻撃に絡む動きが物足りない、キャプテンシーはまあまあ。
…まあ、かなりよく書くとこんな選手だ。
簡単に書くと、レギュラーにしてくれた監督が解任されてしまい、私もレギュラーを失った。で、よくある話さ、当時自分がそうだったように若手選手が抜擢されそのままレギュラー定着。ほとんど試合に絡めなくなってしまった。
上述のバイブルでも、松原健がそうだったというエピソードが出てくるのだが、私も最初は愚痴を言ってしまった。でもすぐに自分にできることをやろうと気持ちを切り替えた。だが明るく振る舞ったとは言えない。悔しさを殺して、目立たないように過ごした。そこが大津アニキと大きく異なる点である。
転職か、大津になるのか
でもレギュラーとしてプレーしたい。ロートルであってもレギュラーを奪い返すのか。それとも諦めて移籍先を探すのか。幸運が重なれば、給料だって上がるかもしれない。
「大津の献身さ」を読んで、当時の私には迷いが生じた。どこかでレギュラー奪取を既に諦めてしまっているのではないか。カテゴリーを落としても中心選手になりたい。でも給料は半分と言われると困る。だって子供もいるし、マリノスのネンチケは変わらず買いたかった。
期せずして自粛期間、完全テレワークに突入し、私は悶々とした。行き詰まり感は募る。キャプテンとして活躍していたころならまだしも今後の会社がどうなっていくのかすら、情報は入ってこない。そして転職活動に傾いたら、オファーがなかったわけではない。条件面の前に、まずは君のような水を運べる選手はうちのチームに必要だよと言ってくれたオシムも居なかったわけではない。あ、オシムって言っちゃったね。
オシムとの面接が設定されたころだったと思うが、リモート紅白戦に出番がやってきて、ほんの少しだけいいプレーができた。コロナのような未経験の危機が訪れている、その時は点取り屋よりも献身的で汗水流せる選手が必要だ、という風向きが味方してくれたのか? ドラマチックに描くならそうなるが、真相は分からない。
大津祐樹ほど夢と希望に溢れてはいない
1ヶ月前のオンライントークショーで、大津祐樹が登場した回を熱く見守った。Q&Aで無人島に行くなら何をもっていくかという他愛もない質問に、大津は真顔で夢と勇気と希望と、そう即答した。栗原勇蔵が現役を退いた今、大津や水沼宏太、昨日の記事に登場した實藤友紀の世代は最年長である。彼らが「若手が気持ち良くやれるように環境を整えるのが俺たちの役目だもんね」と口を揃える。そんなチームのムードは、良いに決まっている。
ともかく私は、大津のようにはなれない。でも見てくれる人は見てくれている。だから、レギュラーに戻ったなんてわけではないけれど、少なくとも若手が気持ち良く仕事できる環境を整える側には立てるようになった。で、こないだある若手に言われた。「あなたがくれるメールは若手に寄り添ってくれていて嬉しい」
他の人より早く出社して私なりに練って送った激励のメールのことだ。見てくれる人は見てくれている。
リモートマッチも見てる俺たちがいる
再び冒頭のaikoの名曲に戻る。失意の彼女は、燃えさかった恋の後に訪れたをこう締めくくる。
さらに見えなくなる…すべて。この歌よ、誰が聴いてくれる!
深い失望。現状への諦め。そして別離。
だが、選手たちには俺たちがいる。彼らの、あなたの苦労をすべて見てきたなんて到底言えない。けれど、私たちが背中を押せるのは試合中の90分だけではない。ピッチを離れても、たとえピッチに立てなくても、それに俺たちの姿がスタジアムになくても。
俺たちの歌がスタジアムまでは届かなくても、4ヶ月分の中断の分も精一杯歌う。だからもう一度言う。見てくれる人は見てくれている。
アニキのこともだし、今、自分なりにもがいているあなたのことも、だよ。
スーパースターでなくても、大津祐樹のように夢と勇気と希望につつまれていなくても、一緒に前に進もう。
なんか自己満足型のエモーショナルなエントリーで本当にすみません…。