今年もマリノスにシャーレを 2020

シャーレを掲げることは難しく、守ることはさらに難しい。連覇に挑む2020年、アウトサイダーではなく本命として、今年もシャーレを掲げよう。座右の銘はシャーレです。

パス558本の事実をどう捉えるか【J1第6節◯横浜FC戦4-0】

マルコス・ジュニオールの浮き球は、目掛けていたエジガル ・ジュニオの爪先には触れることがなかった。が、マークに付いていたCB田代真一の足先にあたり相手方のネットを揺らした。オウンゴールの先制点は、それまで相手のプレスの強さに苦しめられていたマリノスにとっては望外のゴールとなった。こうした真の恩返し弾はいつだって称えられてしかるべきだ。

前半の折り返しこそ1点のリードのみだったものの、後半は3得点。2点目は仲川輝人がペナルティーアーク付近からあげた短いクロスをオフサイドギリギリで飛び出したマルコスの一瞬の抜け出しで勝負あり。3点目は水沼宏太が右サイドで相手を振り切って、決めてくださいねという極上のクロスを左足で送って、遠藤渓太が頭で決めたもの。さらに渓太は、球際の強いマギーニョに一歩も引かずに仕掛けて、DF2人を抜いたあとは冷静に、フリーで待ち受けるエジガルにグラウンダーでマイナスのボールを送る。あの負傷した昨夏の神戸戦以来となる公式戦のゴールを、エジガルはワンタッチで、ただしとても丁寧に、大事そうに、右足のインサイドで蹴りこんだ。セレブレーションでは、この1年の間に生まれた愛息ジョアン・ミゲルのイニシャルであるJとMを示し、おしゃぶりの真似まで見せてくれた。19年のエースは紛れもなくこの男だった。得点が生まれて本当の意味で「エジガル が還ってきた」と言える。


最後の横浜ダービーと言われた8月11日の8-1というスコアから13年の歳月。13年後にセルティックの名手・中村俊輔が相手方にいるんだぜと言ったら、さぞやスタンドでは嫌な顔をされたことだろう。でも、事実である。
4-0という快勝。ただし8得点が必須だと思っていた私からすると、この結果には満足し切れない。目標の半分の得点数だからだ。

この試合で前半は完全に相手方がペースを握っていた。後半はマリノスらしい攻撃回数が増えた。にもかかわらずという数字、DAZNの中継で出されたスタッツを紹介したい。
全て数字は左がマリノスで、右が相手チームである。

シュート数 :19 (12) 12(8)
ボール支配率:54%   46%
パス数   :558 474
パス成功率 :82% 75%
*データスタジアムの値と比較すると枠内シュートの数が半分となっている他は大きく変わらないようだ。

同じくデータスタジアムによると、マリノスの今季の1試合あたりのパス数は705本、ボール支配率は63.8%とある。すなわち、いずれも大きく今期の平均値を下回る数字となっている。

その原因の一番大きなものは、先方によるオールコート、マンツーマンディフェンスにあったと言えるだろう。前半にGK梶川裕嗣がボールを持ったシーンで、映像を止めてみるとすぐに分かる。どこにもパスコースがないのだ。10名のフィールドプレイヤーにもれなく一人ずつキッチリとマークがついているのだ。G大阪戦でも似たことはあった。ここでパスを付けられてもその選手は前を向くことは難しく、つっつかれるとそのままボールを失う恐れがある。家本主審は「正当なフィジカルコンタクト」の幅が大きいので、ファウルと判定されずに大ピンチということも起こり得る。

畠中槙之輔と伊藤槙人のヘルプという意味で普通は扇原貴宏か喜田拓也が降りてくる。が、この日は仙頭啓矢が先発に起用され、ボランチは1枚になっていた。

さあ梶川にパスを出すことに躊躇はないのか。朴一圭が離脱している中、さすが全試合でゴールを守る梶川のパス能力は本当に素晴らしかった。パスコースがないのならと、最前線のエジガルに渡すのが一番安全かつ、おさめてくれる可能性も高い。こぼれたら周りで攻撃的な選手が拾ってくれるかもしれない…。
にしても、正確無比なキックがなければただ単に蹴って相手にボールを渡すだけになっていただろう。このように「いきなりエジガル」が増えるほど、マリノスのパス本数は大きく省略されることになる。

とは言え、先制点をゲットするまで圧倒的に押していたのは相手の方だった。被決定機も3回はあった。下平監督が試合後のインタビューで苦笑いしていたように、狙い通りにできた、でもゴールという結果だけがついてこなかったということなのだろう。

各選手がそれぞれマリノスのボール保持時にマンツーマンを仕掛けることは当然体力の消耗は大きい。さらに言えば、マリノスの選手が圧力に慣れてきたこともあるだろう。また中盤でのボール争いという点で、レオシルバも三竿も橋本拳人も相手チームにはいなかった。

よって、20分過ぎから少しずつマリノス側に流れは傾き、なんとか無失点で凌げたからこそだろう、あっさりと先制点が転がり込んできた。

これが0-1、0-2となっていた可能性は十分にある。が、後半になってさらに運動量が落ちたせいか、少ない選手でマリノスの猛攻を防ぐことはできなかった。


前節は、チアゴ・マルチンスとエリキ が負傷交代となったが、今節はマルコスと仲川が共に足を気にするそぶりを見せた。(これで遠藤渓太が抜けたらキツイ) マルコスの出来はどんどん良くなっている。試合後も場内一周に加わっていたので、大丈夫だとは思うが…。札幌戦にも必要不可欠だ。


初出場の仙頭は、シュート3本。J1初出場ながら攻撃面では存在感を見せた。入れ替わりで扇原が入ってからの方がぐっと落ち着きが生まれたのも事実。タイプが違うと言ってはそれまでだが、右に左に顔を出してミニマルコスとして頑張っていたと思う。試合後は、べったり汗で貼りついたユニフォームを脱ぎ、地肌直接ビブス姿を披露していたな。

水沼宏太早くも4アシスト。この日は、左足でも質の高いボールを見せた。右足を警戒してコースを切っていた相手はさぞや悔しいことだろう。テルのようなスピードがなくても、別の怖さを右サイドで見せてくれる。高機能砲台。そしてかけ声を絶やさない献身性もこの日も健在。先発でも、途中出場でも、この選手はもはや欠かせない。

4-0の、後半30分には武田英二郎と中村俊輔が投入される。相手の選手として日産スタジアムのピッチに帰ってきた。交代の際に、拍手、それもかなり大きな拍手が送られていた。相手方の選手なのにおかしいと疑問視する声も理解できるが、マリノスを去ってからそれぞれいろんな苦労をして、さらに等しくコロナの影響を受けて、ここにたどり着いている。再開直後の特別なダービーだから、こんな雰囲気があるのもいい。来年も横浜ダービーは行われる。その時は6万人くらい入って、相手を威圧する雰囲気でもいい。

その俊輔と、試合後に言葉を交わしていたのは渓太。おそらく移籍の話を報告していたのではないか。最後に渓太の肩を叩く俊輔の唇ははっきりと「がんばって」という形に動いていた。特別な時間、いいんじゃないかな。


相手チームもマリノスの背後をついてきながら、ボール保持にこだわろうとしていた。降格がないからこそ、長期的にチームの骨格作りに挑んでいるという。その姿勢にはほんの少しだけ好感が持てる。だからパス数も、ボール保持率も、いつものマリノス戦の数字にはならなかった。

マリノスがその対策を上回ったとも言える。相手の対策も効果的だったと言える。パス数や保持率は指標の一つに過ぎないがマリノスほどここに極端な特徴があらわれるチームもない。

でも個人的にはショートパスで蹂躙するスタイル、好き。やはりこんな絶対に負けられない相手、割りに合わないダービーマッチで次はもっとボコボコにしてほしい、という気持ちだけが残った。「これぐらいにしといてやらぁ」そんな負け惜しみを、次も聞きたい。