連鎖。目に見えないウィルスは私たちからJリーグのある日常を奪った。たった8日前の開幕戦のときも雲行きは怪しかったものの、それから一気に開催延期が広がった。一番早かったのはJ、村井チェアマンの決断でそれに追随する形で無観客試合、延期、中止など各スポーツ団体が続いた。
開催見合わせの期間は2週間とされたが、新型感染症の収束の見通しが立たない以上、まだ再開の目処も立たない。災難、厄災、我慢。いずれにしても再開されるまでマリノスの試合の記憶が、この開幕戦で止まってしまうことはとてもつらい。
私は、この日大阪に居た。毎年のこの時期大阪に1週間ほど出張する。前年は吹田での開幕戦に立ち会えたが、今年はホーム開幕。しかも土曜ならまだ行けたのだが、悲しみの日曜。
大阪で発売されたばかりのランチパックを買うものの、コンビニでは横浜F・マリノスバージョンは売っておらず、やむなくG大阪を喰らうことでゲンを担ごうとした。
で1週間、感染症の影響で仕事も大きな影響を受けてようやく今である。
ミスの連鎖は「起こされた」
ティーラトンのトラップもおかしく、戻された扇原貴宏もトラミで前を向けず、伊藤槙人に戻す以外の選択肢を失う。槙人の朴一圭への横パスもズレる。そしてパギもまたトラミ。これだけ最終ラインでミスが重なることは珍しく、そりゃあ失点する。
でもこれはマリノスの自滅とはどうしても思えない。G大阪の思い切ったカミカゼプレスにリズムを狂わされたからだ。
喜田拓也と扇原、およびマルコスジュニオールにパスが通ると、マリノス陣内であっても追いかける。さらに前線の仲川輝人には藤春がマリノスボール時にはマンマークしてくる。藤春ミッション。キーマンにボールが渡ったその瞬間、彼が自分でボールを前に運ぶ前に。
定石1・リズム破壊
ゼロックス杯の前半でも慌てたように早く鋭いプレスにマリノスは手を焼く。そこに連動が加わると、パス回しにズレが生じる。パス回しにはリズムが大事だ。上手く行っている時のマリノスのパス回しが楽しい理由もこのリズムにある。
そのリズムも壊すための連動プレス。最終ラインに人数をかけてプレスをかける分、マリノスがいなせば大きなチャンスが転がり込というガンバにとっては紙一重の作戦。それが身を結んでしまった。
誰が悪いというよりも、立ち上がりに圧を正面から受けてしまったマリノスの対応が悔やまれる。
マンCであっても、リバプールであっても、彼らの前進を止めるなら首根っこを捕まえに行く。たぶん一番シンプルな定石通りのやり方だろう。それを完遂したところにガンバの勝因がある。
定石2・ハイライン破り
マリノスがラインを上げて、ポゼッションを高める。両サイドはさらに広く高く。真綿に首殺法だ。ジワジワと相手は守り疲れ、綻び、そこをスピードで壊す。やる方はゾクゾクするし、やられる方は堪らないだろう。
ハイラインを下げるには?当然ウラを狙う、サイドバックのウラを狙う。足の速いセンターバックの遠い方のサイドだ。それが定石。でもチアゴ・マルチンスという規格外の選手がそれすらも封じてくる。ウラを狙った長いボールは全部チアゴに回収され、まもなく逆襲を喰らう。それでは割に合わないのでロングボールを蹴る人は激減した。
ヨーイドンで勝てないなら、ヨーイドンを狙うと巧みにオフサイドにかかるなら、どうする?
そこで持ち出されたのが「後ろの列から堂々と抜け出す」だった。倉田のプレーである。
はい、オフサイド……じゃない!!
一旦ガンバの攻撃を組み立て直すぜと見せかけてGK東口へのバックパス。それをまさかのロングフィードで前線を狙う。いや、待て。攻め上がっていた5名がまだオフサイドポジションじゃないか。なんて無駄なことを…
その心理的、時間的ギャップにいち早く反応したのが倉田だった。オフサイドだし、大丈夫…と思ってしまったのか、倉田を追うタイミングがほんの少し、0.2〜0.3秒遅れた。これが致命的となった。
オフサイドを知らせる副審の旗は、VARであっさりと覆されて、ガンバに2点目が入ったのである。
何も新しいやり方ではない。ハイラインの宿命。1失点目は最終ラインからつなぐことにこだわるがゆえの副作用。そこを愚直に突かれたのである。
マルコスのスーパーゴール
0-2とされ開き直ったマリノスは、後半はさらに攻勢を強める。65分の喜田→エリキの交代はこれまでにない攻撃的な采配。いや、まあエリキ加入以降、これほど劣勢な試合はなかったとも言うが。
オナイウ阿道のシュートも東口に弾かれるなど嫌な流れだ。だがさすがのG大阪の運動量も落ちてきたがエリア内のブロックは決壊しない。もう中も外もスペースがないのだ。
そんな時にマルコスの劇弾は生まれる。エリア手前中央で受けてからのターンが美しく、DFが寄せる前に左足を振り抜く。そのシュートはクロスバーに当たった後にゴールに吸い込まれていったのだ。美しいゴール。スーパーゴールだ。
エジガルがついに帰還
だがこうしたゴールに頼らざるを得なかったのも事実である。シュートはG大阪の倍の20本。でも枠内シュートはG大阪6でマリノスは4だ。
残り4分+ATというところでマルコス→エジガルジュニオの交代。エジガルチャントの声はテレビ画面越しにも巨大なものだった。同じく途中にティーラトンと交代した高野遼もサイドからチャンスを作る。だがエリキ、エジガルにシュートは生まれず、1点差での敗戦となった。
殴っても殴っても有効打とならないもどかしさ。ACLと異なり、マリノスのストロングをよく理解したうえで、仲川のドリブルはわずか2回に封じられた。他方、遠藤渓太は10回チャレンジして6回成功したという記録だ。渓太がとりわけ良かったというより、G大阪が多少左サイドには目をつぶっても、右に藤春を張り続けたということか。
やることは変わらない
結果は厳しい。やられ方もちょっと辛い。
けれどもここ半年、上手く行きすぎていたと思うことにした。
いいよね、対策。王者っぽいよね。それを弾き返しちゃうのもいいけど、いったんは相手の必殺技を喰らってしまうのも、古典的ヒーローもの感覚で言うと勝利への近道である。
中止なものは中止。ACLは再開までまだまだかかりそうだが、なんとかJリーグとNPBで連携しあって最短のスケジュールで復活することを願ってやまない。
練習試合の結果を見る限りは新戦力の台頭がめざましそうで、畠中槙之輔の復帰も近そう。
冒頭で「マリノスの試合の記憶が、この開幕戦で止まってしまう」と書いたが、たった1試合で王者感が薄れたのはとてもいいこと。
もう一度チャレンジャーとして挑もう。そして最終節、吹田でやり返して連覇を決めてやるからな…!