あんなにもマリノス側の、つまり普段は水色チームが陣取っているホーム側のスタンドは早々に売り切れ、黄色側チームの席ばかりが残っていたのに、さすがは天皇杯。席は二等分され、まるでマリノスと柏のサポーターが同数かのような錯覚を受ける。
それでも決勝進出の権利はどちらかにしか与えられない。柏はマリノスにとって苦手なチームだ、そしてカップ戦の準決勝では2勝13敗。そのマリノスが柏を追い詰めていた。
後半延長17分、嫌なロングスロー。先に頭で触られて、ゴール前へ。距離は近い。キムボギョンの仕掛けたオーバーヘッドキックのフォームは美しく、ボールを捉えた。2時間前に土壇場で先制点を挙げながらも神戸がセレッソに追いつかれたように、その奇跡のような、クソみたいな失点を覚悟しかけた。
残念、そこは中村航輔?惜しい、違う。この日は飯倉大樹だ。武富がニアに飛び込んできたシュートなど、一体彼は何点を自らの手で防いだのか。これほどGKの目立つ試合も珍しい。それくらい紙一重だったし、むしろ戦前の予想通り、柏のプレスに苦しめられ、マリノス自陣でのミスもよく起こっていた。ハモンロペスのすんごいシュートは、飯倉に責任がないわけではないが事故のようなもの。そう思えばいいのに、飯倉は苦しんでいた。
だが失点直後の被決定機を伊東純也が外したことがメンタル的には大きく、そこにセーブとビッグセーブが重なったことで、いよいよ飯倉の頭上に守護神という名の神が降臨したのだろう。
したがって、オーバーヘッドが来ることも、コースも読めていたので比較的余裕を持って止められたというコメントになる。素人目にはどう見ても簡単なセーブには見えない。どんなに言葉を尽くしても、75分以降の飯倉の動きを理屈で説明できない。ともかくあちらのGKまでもが攻め上がる状況を防いだ後に、笛が鳴った。
マリノスの決勝進出を告げる笛。エリク モンバエルツ監督ともう1試合ともに戦えるという笛。2017年という、マリノスの歴史にとって転換期となる1年を勝利で終える笛だった。
ヒーローは他にもいる。支配者、中町公祐の最大のプレイはハモンロペスへのスライディングタックルであり、見事過ぎるサイドチェンジの繰り返しだった。
無論、今季不遇をかこったにもかかわらずワンチャンスのクロスを上げた下平匠と、それをヘディングで押し込んだ伊藤翔の存在はこの試合に欠かせなかった。遠藤渓太の思い切りの良いラストパスとそれを股抜きで決め切ってみせたウーゴ ヴィエイラ。中澤佑二とのコンビで、パクジョンスは入団以来最高の試合を見せたと思う。
戦前の予想では柏有利が多かったと思う。それを覆したのは、苦手でもなんでもいいから貫徹した、GK飯倉からのパスでのつなぎ。まだ心臓に悪いシーン、パスミスは1試合に何度も散見される。だが1年前を思い出して欲しい。あの頃のビルドアップからすれば、相当なレベルアップではないか。
鹿島のプレスをかいくぐったマリノスの戦術は、先制を許してからも一貫していた。食いつけ、柏の選手よ。生半可なやり方だったら2点目を失ってゲームが終わっていたかもしれない。だが貫いた。鹿島と並ぶほどにプレスの激しい柏の勢いが少しずつ疲労とともに削がれていく。プレスの象徴でもある中川寛斗の足が止まり、流れはマリノスへと傾いていった。
それでもなお、飯倉の凄味がなかりせば、やられていた可能性の方が高い。柏の指揮官は「決定力不足」を嘆いたそうだ。また警戒していたカウンターにやられたことも悔しさをかき立てたという。マリノスからすればしてやったり、である。
さて、もういくつ寝ると決勝戦。
早く来い来い、決勝戦。
相手は無敗でルヴァン杯を制したセレッソ大阪に決まった。つまり、このチームは今季カップ戦で無敗と圧倒的な結果を残してきた。言うまでもなく、マリノスは今季ワーストの4失点を喫したホーム最終戦でのリベンジを狙う。ルヴァン杯も合わせて3戦3敗で近年は柏以上に相性の悪い相手。決勝でやり返そうとシーズン中から威勢のいいことを言っていたが、いざ対戦が決まると怖い…。
やるしかない。来年のレギュレーションと異なり、中2〜3日で決勝を迎えるのではなく、日程は1週間以上も開く。どちらも万全で、その日を迎えるだろう。
鬼門である準決勝、苦手である柏、最近はロクな思い出がない等々力。これらを乗り切ったトリコロールならば、決勝でもひと暴れしてくれるだろう。
いざ4年ぶりの決勝へ。8回目の天皇杯王者へ。
勝つしかないだろ。