中町公祐の付き添いに続いて、ウーゴ ヴィエイラがLED看板を超えてきたのは2度目だった。
みんな、ありがとう。俺は決めたよ。祖国のため、マリノスの勝利のため、そしてスタンドで何十回と名前を呼んでくれたお前達のためだ。
直後、万雷の拍手とともに、ウーゴはピッチを去っていく。ポルトガルの故郷で起きた山火事で、心を傷めていたウーゴに送ったゴール裏からのメッセージは「あなたのゴールでみんなを笑顔に」。その通りになったと言える。
もしも。あの堅固なマリノス守備陣が一瞬やらかして、内容の割に不当な引分という結果に陥っていたのなら。
ウーゴ ヴィエイラは間違いなく、お前が決めてれば!の大ブーイングを浴びていたことだろう。敗戦責任者の誹りを免れなかったに違いない。間違いなく当たっていなかった。神戸GKとの間合いが合いすぎていたのだ。
得点の時も、股下を大きく開けてくる誘いに乗って、GKの身体に当ててしまった。それが運良く自分の体に再度反射しただけのことだ。
エリク モンバエルツ監督も、選手交代の決断の遅さが吉と出たが、はたして。冨樫敬真の投入をあえて遅れさせたのは、FC東京戦で交代にキレたウーゴの気持ちを汲んだのか、それとも彼も横断幕のことを理解していたからなのか。はたまた1-0で動けずに、悩みまくっていただけなのか。
度重なる決定機を逸し続けたことは宜しくないが、後半の内容は一方的と言ってよかった。前半はスコアこそ動かなかったものの、得点を予感されるものは十分あった。1-0、2-0はロースコアの部類に入るが、ロースコアすなわち塩っぱいという評価は誤っていることがこの日のマリノスが証明してくれているのではないか。
観客が沸く攻撃とはすなわち、次のパスなり、シュートなり、動きの予測を上回ってくれるかどうかにある。
だから横パスを予期したシーンで、その通りに横パスされると納得はしながらも興を削がれるのだ。
果たして、山中亮輔のマイナスのクロスを俯瞰した座席から以外で予期できた人がどのくらいいただろう。中町公祐は速度を緩めて、ひっそりとマークを外した待っていたのだ。山中もそのことが分かっていた。先にウーゴのことを書いたけれど、美しい先制点を私は先に描写すべきだったかもしれない。中町が看板を越えて、左胸のエンブレムにキスをした瞬間、なんか泣けた。
あのキザな選手会長のことだ。自らのマリノス残留を決め、ロイヤリティを持った選手が集まればいいと発言してから、きっと決めていたに違いない。今季のゴールの時には、俺のマリノスにキスを捧げると。多少時間はかかったにせよ、我らは中町の想いの強さをはっきりと見せてもらった。
あのシーンも、扇原貴宏の狙ったのか偶然か微妙な見た目のウーゴへのラストパスも。私たちの予測を上回ってくれている。だから、塩気など私は微塵も感じない。
サッカーの醍醐味は得点にあることは認めるが、同様に無失点に無上の喜びを感じよう。アップの時に、中澤佑二は幾度となくロングボールの落下点に入ってヘディングで跳ね返して、痛々しいテーピングの両膝の感触を確かめていたのだと思う。試合本番では、味方のセットプレーのために攻撃参加した後に高速で戻って、落下予測して、高さで相手を上回って。もう人間業ではない。あの守備を見るだけで金を払う価値がある。何度でも言おう、2010年のW杯より後の日本代表のセンターバックは、壁どころか生け垣である。
139試合連続フル出場。12510分。日数に直すと8日以上、ぶっ通しで試合してる。ごめん、なんの意味もない。ついに頂に並んだ。
こんな攻守を見て、塩っぱいという輩がいるなら、もう川崎でも、横縞でも行けばいい。
4連勝は誇らしい。首位争いに名を連ねてることも誇らしい。若き力と、ベテランの矜持が入り交じる魅力も。
だが一番大事なことは、2017年6月のマリノスは、一度たりともゴールを破られることなく、(あっ試合の趨勢が決まったFC大阪戦は許して)しかもチャレンジを繰り返して勝利と興奮をもたらしたことにある。
川崎戦を見守った4.2万人のうち2.5万人はどこへ行った。新たにユニフォームを貰った人もたくさんいるだろう。スタジアムで着ないのは勿体無いぞ。今日のような連勝が続いたら、どうしても来たくなる基礎票が増えることだろう。
コメントくれたサポさんのような遠方の方は、たまにだとしても、手拍子して、声出して、いい雰囲気作っていきたいもの。
さあ、マリノス3大鬼門の一つ、ナックに乗り込もう。塩分控えめマリノス、脱水症状には気をつけて。