覚悟はできている。
よく考えれば、一体、誰が何に覚悟をするのか。開幕に何を覚悟すればいいのか。
覚悟という言葉は、マイナスに取ることもできる。そのまま観念に置き換えてみたら、例えばJ2に落ちる覚悟という表現もある。
齋藤学が小学生だったころ、マリノスはいつも勝利していた。名門にして、強豪。誰もが憧れるチームの、その下部組織に所属していることさえ誇らしかったことだろう。
そのマリノスは低迷期を経て、中村俊輔復権の時代には銀皿にあと一歩のところまで迫った。その後、強豪と呼ぶにはあまりにも中位を続けてきている。
何年かに一度の転換期というものがどのチームにもあるなら、それは今年だ。エリク・モンバエルツ監督が就任し、シティグループによるチーム作りが本格化した年。一時代を築いた中村俊輔が退団した年。当然、好転してほしいが、この結果がどちらに出るかは本当に予測不能となっている。
それが原因で、順位予想にも異変が起きている。ここ数年で、いやもっと長い間、マリノスは中位に予想し続けていれば良かった。それが定番だった。上位に食い込む可能性は低いが、かといって残留争いに巻き込まれるほどでもない。そのマリノスの順位予想が本当に幅広い。ACL圏内に「抜擢」する記者もいれば、降格を予想する記者もいる。それくらい未知数で、謎のチームになったということだ。転換期はリスクが高く、そしてワクワクも高い。
齋藤学の覚悟とは、単に主将として、重い背番号を着てプレーすることだけではない。ずばり、強いマリノスの復活がテーマだ。それを成し遂げる覚悟。34試合、主力として戦いきった上で、成績も伸ばす覚悟。
その覚悟は、下馬評で優勝候補とされるチームの守備をも貫くだろうか。
学だけではない。マリノスに残った選手というのは多かれ少なかれ、それぞれの覚悟とともに戦う。飯倉大樹や中町公祐、栗原勇蔵というベテランに属する選手ならなおさらだろう。
それにもちろん中澤佑二。今日39歳の誕生日を迎える。節目に気合が入らないはずがない。衰えない意欲のかたまりであり、一線で活躍し続けるその姿は、クラブだけでなく日本の宝と言っていい。今年は17歳年下のミロシュ・デゲネクとのコンビで開幕を迎えるが弾き返す彼の守備は変わらない。中澤の不得手なスピードとロングフィードの精度、この二つに持ち味のある豪州代表とは相性がいいはず。
ミロシュは、来日して一番驚いたことにボンバーの存在をあげていた。その真摯な練習に取り組む姿勢は、年齢や国籍を越えて、驚愕に値する。今年も大過なく、順調に開幕戦の最終ラインに中澤佑二がいる。それは誇らしく、頼もしい。
相手がどこであろうと、そのような中澤の節目の日に、勝利は譲れない。大丈夫、勝てば得る自信は大きく、たとえ逆の結果でも失うものは勝ち点以外にはない。大いなる希望は、我々の中に。
真新しいユニフォームと、25周年に作られた真新しいアンセム。行く手に立ちはだかる赤い選手たちすら、新しいマリノスの出航を祝う舞台装置の一部。
さあ、船出だ。天気晴朗なれども波高し。よい旅にしようではないか。