鹿島と磐田に連勝した、リーグと天皇杯の連戦こそ、エリク モンバエルツ監督がもたらした成長のハイライトだったと私は思う。退任による後出しに聞こえるかもしれない。だがフランス人指揮官によるチーム作りは一つの確かな結果をもたらした。
だって、齋藤学も
ウーゴ ヴィエイラも
マルティノスも欠いた布陣。この3人の個人能力に頼ったいびつなチームだったはず。確かに押し込まれたし、ラッキーもあった。
けれども逞しく戦い、俺がやってやるという姿勢を多くの選手が示してくれた。ほんの少し前を思い出せば、隔世の感がある。
中村俊輔頼み。スター選手におんぶに抱っこ。それは興行的にも、戦術的にも。31歳の日本代表の中心選手から、そりゃあ6年も経てばいよいよ晩年期だ。木村和司監督の頃はまだしも、樋口監督時代にも、手付かずの課題だった。
覚えているだろうか。俊輔が欠場と聞いた時のあの無力感。今日こそは誰々が奮起を!とか言うものの、常に周りが求めるのは中村俊輔の役割そのものだったからだ。俊輔ありきのシステムは、俊輔ファンにはたまらないのだが、だからこそなんとかしなければいけないことは分かっていた。新しい芽が芽吹くことがなかったのは、もちろん俊輔が悪いわけではない。だが、存在感が絶大だけに大きな重しとなっていたのも事実だと思う。
真価が問われたのは今年だった。正しいのは俊輔だったのか、クラブだったのか。その問いに答えはない。だが、マリノスも磐田も躍進した。それだけが答えなのかもしれない。
俊輔、榎本哲也、兵藤慎剛、小林祐三らが抜けた昨シーズンオフは崩壊と評された。日本語を解さない指揮官であっても自身に吹く逆風が面白かったはずはない。
真摯に、自身の信念とクラブから託された方針を信じた。その結果、中澤佑二がこの一年で入れた縦パスの本数を見たか。数えたわけではないが、多分この10年間に出した縦パスよりも多い。それくらい佑二には苦手と言って良かったビルドアップが板についてきた。39歳で満身創痍なのに、その要求に応えた本人がすごいが、要求し、実際にスキルアップさせた指揮官はすごい。
あれは2016年、夏の終わりだったろうか。ああ、2ndステージの俊輔の離脱と時期が重なるかもしれない。マリノスが突然、自陣でボールをつなぎ始めた時だ。目を覆いたくなるような質だった。できないことをやるものだからミス連発。おいおい、縦にシンプルに蹴ってくれよ〜と、目先の試合しか見ていない私は思った。そんなに上手くなることなど、想像していなかった。
あの鹿島戦。この4年間で唯一の勝利であるあの鹿島戦。当代一のボランチ、レオシルバのプレスを交わすトリコロール。リーグ1の鹿島のプレスに屈しない、それどころか磨き上げたカウンターに賭けるその姿は感動すら覚えるものだった。今シーズン、いや3年間のベストバウト。
3年を区切りとしての退任。来季も5名もの18歳の選手が加わることを考えれば、育成に定評のあるエリクの続投を望む声も多いだろう。だが古川社長と、CFGと、エリク本人が交代を選んだ。リーグ優勝経験のある監督を軸に探すという。なにもJリーグの優勝経験とは言ってない。シティのパイプで驚くような人選を期待したい。強いていうならエリクに足りなかった勝負師としての強さ、身近で言うならネルシーニョ型が持つ特性が今のマリノスには必要かもしれない。
ありがとうは、まだ言わない。
残り3試合でかかる念願のACL出場権の奪還。そしてタイトル、天皇杯まであと2つ。エリクの帰国を年越しまで遅らせて、そして勝ってこの3年を締め括ろう。
まだ戦う。