齋藤学が残留を決め、背番号は10となり、主将にも就いた。流出やむなしと覚悟を決めていたエリク・モンバエルツ監督は大いに喜んだ。
マリノスのストロングは両サイドの突破。学の存在そのものが戦術を凌駕する。だからこそ、ミロシュ・デゲネクや扇原貴宏の正確で長いパスに期待が集まる。あとは両翼がなんとかしてくれるだろう。
両翼。左の翼が学なら、右翼のレギュラー最右翼には、マルティノスだ。来日2年目も最大の武器であるスピードは健在。とにかく初速が速く、ストライドも大きい。まるで短距離専門の陸上選手のような佇まいだ。
マルちゃんというニックネームもすっかり定着し、と同時に、接触プレーで極度に痛がるクセが仕様だということも周知となった。チームメイトにもいじられるほどの痛がり方、転がり方は大袈裟そのもの。これはもう痛みに弱いとしか言いようがない。その割にはケガで離脱はしないのだから不思議なものだ。
その様子は七転び八起きというよりは、七転八倒が相応しいが、姿からは想像つかないほどマジメなのである。同時に加入した際は格上だったはずなカイケの方がチームを去り、マルちゃんは残った。彼なりの適応があったからだ。またスタミナも豊富で、使い減りしないのもありがたい。守備もさらに一生懸命やるようになったと聞く。
実は、マジメなのだ。
昨季のリーグ最終戦も相手は浦和だったわけだが、リードを許した終盤で快足を飛ばしてゴールを奪ったのはマルティノスだった。決して出し抜いたわけではない。圧倒的なスピードで、外から浦和の守備をぶち抜く。ボールへの直線距離ははるかに関根が近かったはずなのに、二歩は先にマルティノス。
関根は肩を掴んでカード覚悟で倒そうとするが、それも許さない。それが破壊的スピード。あんなに簡単に倒れるマルちゃんだが、ここぞという時は頼もしい。シュートを西川の届かないところに冷静に沈めて、敗色濃厚だったチームを救った。この男、明らかに速い。速さだけなら学や遠藤渓太をも上回るだろう。
明日のミッションは、高い位置でのプレス。しつこい守備が実は得意だ。長い足でボールをからめ取ってくれ。
そして蜂のひと刺しが如く、素早くて鋭いカウンターには否応なく期待が集まる。キレキレで、代表にも選ばれる学には自然と注目も、マークも集まるだろう。その煙幕に隠れたマルティノスは静かに牙を研ぐ。浦和への猛毒を含んだ牙で、相手のミスを引き起こすだろう。
今年、マルティノスがレギュラーとして定着するようなら、つまりは毎試合安定したパフォーマンスを発揮するならば、これはマリノスの上位進出の大きなカギとなる。
学だけではない。ウーゴやダビ、デゲネクといった新戦力の影にも上手いこと隠れてきた。あとは、浦和の接触にも屈しない強さを見せて、集中力を切らすな。90分のうちに必ずや、マルの時間と空間はやってくる。
カリブの快足。高い適応力と、信じられないスピードで酔わせてもらおう。
いよいよ、あす開幕戦。新生マリノスの命運を両翼に託そう。