銀皿航海 蹴球7日制

横浜F・マリノスサポーターです。好きな言葉はシャーレです。

衝撃にして、最高の開幕戦【J1・第1節 浦和戦】

その瞬間、途中出場の前田直輝にはゴールへの道筋が見えていた。
そのゴールは前評判では有利と言われた浦和を敗戦に追いやる、単なる決勝点というだけではない。
陳腐な表現で言うなら、新シーズン、いや、新時代の扉を押し開く価値のある道筋だった。

だから震えそうになりながらも、前田はグラウンダーの抑えたシュートを蹴り込む。「ふかして枠外は一番まずい。グラウンダーなら、たとえ誰かに当たったとしてももう一度チャンスはある」
目論見は良い方に外れ、92分、横浜F・マリノスが再逆転。

若きマリノスの選手たちは、試合終了の瞬間に、ピッチに跪いて勝利の雄叫びをあげる。スタンドに挨拶に向かう前に、ピッチ中央では勝利を分かち合う円陣が組まれた。新加入で途中出場、同点に追いつくヘディングゴールを決めたウーゴ・ヴィエイラが咄嗟に呼びかけて出来たぎこちない円陣も、これまでのマリノスにはないものだった。
勝利と栄誉に飢えた男たちの新しい儀式は、会心の勝利のあとにこそ、相応しい。

敗軍の将・ミシャは、マリノスに負けたというより齋藤学にやられたと語った。いい選手だとわかっていて、対策していたのにそれでもやられた。水沼貴史氏は「今年も健在かな」と呟いたが、健在どころではない。大いなる進化だ。主将、背番号、マリノスのプライド…自ら背負った責任の副産物だろう。迷いなく、最短で相手のゴールを追い詰めていく。

青木が阿部が、宇賀神が。昨年、勝ち点を最も稼いだチームのレギュラー守備陣たちが、バランスを崩してでも、塞がなければならない。さもなければ、やられる。だから学の横を切る役割と縦を切る役と、エリア内は赤い選手たちで埋まる。その分、後ろにはスペースができる。
先制点も、冒頭の決勝点も、まったく同じ形で生まれた。エースが引きつけて、マイナスのパス。そこに走りこんできたのが、ダビド・バブンスキーだったか、前田直輝だったかの違いだった。徹底して、学にボールを集め、そこで一人剥がして、侵入。我々が親しんだ背番号10とは違うやり方、いや従来の背番号11の役割そのものだったが、よく見えていた。チームを勝たせるために迷いはなかった。その末の2アシストは、まさに学本人が目指す「チームを勝たせる選手」の働きに他ならない。

迷ったといえば、金井貢史のフィードを受けて西川と1対1になったのに、どフリーの富樫敬真を使うこともできず、中途半端に西川の股下を狙って、決定機を逸してしまったシーンくらいのものだ。
ただしこの逸機の直後に、関根の突破と、ラファエル・シルバの個人技に屈し、立て続けに2失点。逆転を許してしまったのだ。得点機を逃したチームが失点するというのは、サッカーにはよくある光景だ。だから、そのショックは、学にとっても大きなものだった。

ここで下を向いてしまうのか、再び前を向くのか。チームとしての強さは、そういうところに現れる。この日、マリノスは後者を選んだ。ウーゴ投入のタイミングもよかった。万全でない柏木が下がってくれたことで再びパスがつながるようになったのも大きい。そのことで勢いに乗ったマリノスは、天野純コーナーキックを自らつかみ、2本目のCKでウーゴの巧みな同点ゴールを生み出したのだ。

1年前の開幕戦で何もできずにピッチを去った天野とはもう違う。中盤での守備の対応遅れ、流れの中での存在感は物足りなかったが、はっきりと自分の左足の価値を結果で示した。そのことが誇らしい。
前田直輝もそうだ。出せなかった結果を出した。しかも、最高の相手、最高の時間帯に。それは去年の彼にはなかったことだ。ミロシュ・デゲネクと、松原健の守備には不安と疑問が残ったが、それでもこれからの可能性に期待は持てる。

新たな横浜F・マリノスは決して齋藤学だけのチームではない。もちろん絶対的中心として君臨するのは間違いないが、個々に戦える選手が、自らの意思で戦う選手が揃っている。

これからまだまだ強くならなければならない。
でも、新加入選手を多く迎えて、これだけ内容のある開幕戦を見せた、しかも勝ち点3まで土壇場でもぎ取って見せた選手たちを称えないわけにはいかない。

浦和に連戦の疲れが出て、足が止まったかどうかは重要ではない。同点止まりではなく、3点目を挙げたことが重要なのだ。飯倉大樹のビッグセーブも忘れてはならない。

これからは、下平匠栗原勇蔵伊藤翔など、怪我で戦線を離れていた既存戦力の巻き返しもあるだろう。どんな化学変化を起こすか。この衝撃を持続できるか。

降格候補と言われたマリノスの逆襲は、こんなものではない。
さあ、進軍だ。