齋藤学の欠場が決まって、前田直輝の初先発が確実となった。これでますますマリノスにとっての鹿島戦の価値が高まったというものだ。
端的には、学がいなくてもマリノスはやれんのか、というアイデンティティそのものとの戦いであるからだ。
わずか一年前、中村俊輔を体調不良で欠いた開幕戦、マリノスはほぼ何もできずに仙台に敗れ去った。俊輔がいると、いないとではあまりにも違う。そのように言われた通り、俊輔が不在になって露わになるマリノスの現実だった。それはずっと続いた体質のようでもあった。
昨年の後半に、エリク・モンバエルツ監督の考え、「個よりも組織」が浸透し始め、変化が起こった。俊輔がいないなりの戦い方ではなく、いるといないとに関わらない「型」の誕生のようでもあった。ただし、まだ大きな疑念が残る。
それは中心選手が俊輔から学ぶに代わっただけであり、依存体質そのものが本当に変わったのかということだ。
期せずして、それがこの試合で問われることになった。学がいなくてもお前たちは戦えるか。前田個人の話ではなく、11人全員への問いかけだ。富樫敬真も、ウーゴ・ヴィエイラも、ダビド・バブンスキーも、天野純も。彼らのゴールやアシストにはほぼ必ず齋藤学の関与があったからだ。
学そのものが武器であることは間違いない。ただし学の存在に関係なく、自らの武器を繰り出せるかどうか。
それを測る相手が王者鹿島で、アウェイマッチというのは最高だ。
2列目は右から前田直輝、バブンスキー、マルティノスという並びになると予想される。学に気を取られないで済む鹿島の最終ラインとボランチを彼らが押し込めるか。それには松原健と前田の連動が一つの鍵となる。まだまだ日の浅い関係の中で松原が前田を追い越す場面は見られるか。
今季の鹿島を語るには、すでにレオシルバは外せない。レオと小笠原、喜田拓也と天野純のボランチのところの奪い合いも見所だ。ボール奪取力は随一。ここが向こうの狩場になるようだとかなり苦しい。それを上回る小椋祥平の運動量と狩る力が、マリノスの若きボランチにも求められる。
学の代わりに、天野純の上がりを促せる、つまりおさまる選手は誰なのか。底知れぬバブンスキーが、その役割もやれるだろうか。バブ対レオも見ものである。
ちなみに別アングルからこの一戦を煽ろう。それはリアルオリジナル10ダービーという角度。否、今やオリ2ダービーと呼んでも宜しい。
断っておくが、オリジナル10の価値は、一度降格を経験したくらいで傷はつかないというのが私個人の考えだ。古ければ良いというものでもないが、Jリーグは四半世紀前にたった10チームで始まった。その事実は、揺るがない。
名古屋グランパスがJ2に戦いの部隊を移した今季、ついに四半世紀以上をトップディビジョンに居続けるクラブは、我がF・マリノスと鹿島のただ2つとなった。降格を知らないオリジナル10は今や2に絞られたのだ。
すなわちJリーグ開幕以降、ただの一度たりとも対戦が途切れたことがない一戦こそ、この鹿島対横浜だけだ。手垢のついた言い方なら伝統の一戦。早慶戦、巨人対阪神、白鵬対稀勢の里、レアルマドリー対FCバルセロナ。あえてそれらと同列に言おう。巨人・大鵬・卵焼きではなく、今宵55試合目を迎える鹿島・マリノス・バブンスキー。
ジーコの系譜からブラジルサッカーの色を残す鹿島と、東欧に舵をきったマリノスと。このカラーの対決としても魅力的である。
ここ4年間は2分6敗と、リーグ戦での対鹿島勝利は実に2012年まで遡る。まるで相手にされなかった年もある。今年の前評判も断トツの優勝候補と、かたや降格候補である。しかし鹿島も、実はカシマスタジアムでのホームゲームで5連敗中となぜかホームで負け続けている。
エースを欠いた試合だからこそマリノスの可能性を見せられるか、結果を出せるか。
価値が増すこの一戦に、勝ちます。