言い訳ではないが、たまには愚痴らせてほしい。
オナイウ阿道と前田大然のストライカー2名は揃って代表に招集中だ。レオ・セアラは週中の天皇杯で消耗したのかコンディションの問題で先発できない。
戦力が下がらないわけはない。
その天皇杯ではJFLのHondaに、PKまでもつれて疲労した上に敗れ、翌日にはポステコグルー前監督の退任が発表される。柳想鉄の訃報もあった。「普通の1週間」とは明らかに違っていた。
採用された苦肉の策でのゼロトップは、期せずして2年前に札幌戦でフィットしなかったとき以来。だから相手がミシャ(ペトロビッチ監督)でなくても、フルコートでプレスをかけてきた。
メンタル面が整わないまま、蹴らずにつなぐことでハイプレスを受け入れてしまったから、前半わずか7分でオウンゴールを誘発してしまい、終始劣勢のままゲームを終えることとなった。
札幌は強かった。とはいえ、ミシャが試合後に満面の笑みで語っていたようにあちらにも深井、ジェイ、チャナティップなどのレギュラークラスが何名も欠けていた。
劣勢の前半を0-1でしのげただけに、チャンスを作りながらも決定機を決め切れない流れは天皇杯と同じで、自らを苦しめた。
3失点で気になった、逆サイドの動き
このオウンゴールは逆サイドに大きく振られたところから菅に独走を許して、裏のスペースを追走する形で早いクロスを入れられたところで勝負ありだった。
2点目はこぼれ球を左サイドでダイレクトにあわせて菅のゴラッソ。時間を稼ぎながら試合を進めていた札幌の3点目はゴールライン際の侵入を許した上で逆サイドに振られてフリーのシュートを許してしまった。
いずれも「逆サイド」。札幌にとっての左サイドがやけに空いていた。早々にビハインドを負ったことで攻撃に意識が偏重したということがあったにしても、これは大きな穴となっていた。
水沼宏太が入るまで大人しすぎやしなかったか
それでも質の高い決定機は、マリノスのほうが多く作った。プレスをかけ続けることは不可能なので、意図的に落ち着かせて体力の回復をはかる時間を作っていたのだろう。
したがって先制点を許したものの、マリノスも25分ごろからチャンスを作り始める。しかしながら、枠に行かない、または札幌GKの菅野に立ちはだかられて時間を空費してしまう。一つ決まっていれば、まったく違う展開になったのにというパターンだ。
それにしても0-2から水沼宏太のヘディングで1点を返したときに姿は凛々しくチームを勇気づける振る舞いそのものだったが、それまであまりにも大人しくなかったか。
ボスがいなくなり、喜田拓也と水沼が不在のピッチ内。いつもと違うのは分かる。
が、札幌の強度に押される中で、少しずつ自分たちがペースを掴みかけても決めきれず、挙句にゴラッソで点差を広げられて。
一体誰がピッチの中で修正するのか。少なくとも味方を鼓舞できたのか。
自分たちのサッカーを貫くのではなかったのか。
リズムが狂うことに慣れていない
水沼宏太の反撃弾はそんな中で生まれた。クロスボールが相手DFに当たってコースが変わる中でそれでも飛びついて頭で叩き込んだ。
行ける、行けるぞ。
1点差に縮めたからだけではない。水沼の表情と甲高い声が味方選手の思いを一つにした。
うまくいかないピッチ内に必要なのはこういうゲキだ。
だが少しずつ、でも着実に勢いは削がれていった。交代して出てきた選手によって再び活性化する札幌のプレス。警告は高嶺が1枚受けただけ。激しいコンタクトを受容する家本主審の巡り合わせは札幌に吉と出た。
マリノスの球際の強さを認めているからこそ、先に敗戦した鹿島や、この2試合の札幌も皆、中盤の強度を意識してフルパワーで来る。
マリノスはそれを受けてはダメなのだ。またここで万全な戦いができないと自身のリズムを狂わせてしまう。
リズムが狂うことに慣れていない。それが6月の不調の要因と考えている。圧倒的なシュート数や流麗な崩しは、高いボール保持率があってこそ。
だから引いてくる相手には、ボール回しを繰り返して相手を動かす。また球際で勝てていれば、エウベルをどう生かすかで攻撃は設計できる。
基本的にはごく一部の相手を除いて、自分たちがペースを握る、握り続けることで勝ってきた。
そのペースを壊しにかかられると脆さが出る。
一つはコンディションの問題なのだろう。気温上昇とストライカー2名の離脱は確かに影響している。
で、もう一つはメンタル。
自分たちにペースを取り戻すために絶対にやってはいけないこと。
それは下を向くことだ。そのままではペースは決して取り返せない。3点目を失った後も、頭の片隅に絶望があったとしても、追いつき追い越そうとしていた選手、下を向いていた選手がいたのではないだろうか。
少なくとも全員の気持ちが揃っていたようには見えなかった。
中心はハッチンソンコーチ、残り1冠に集中する
テクニカルエリアで指示を送るジョン・ハッチンソンコーチ。ボスの「最後の右腕」にかかる役割はとてつもなく大きい。
松永英機暫定監督はJの監督経験者であり、S級ライセンスを有している。対してジョンは入国制限の遅れもあった新参コーチだ。2ヶ月でJの監督資格が取得できていないのは想像に難くない。
ピーター、アーサーがともにボスの元から監督にステップアップしたようにジョンもまたボスから学び、自身のキャリアを開こうとしている。日本で成功したいという野心は十分にある。
ボスと過ごした時間は長くないかもしれないが、日本の最後のパートナーに虎の巻を託してやしないかと期待している。
2試合で2つのタイトルの可能性を相次いで失ったことは事実でそのダメージがないはずがない。
ただ幸いにして今週末のリーグ戦はなく、ほんの少し立て直しの時間はある。それがポジティブな「退任ブースト」だ。
こんなときこそ私たちのような外部のファンも、チャンス!いける!リーグ戦集中!という雰囲気を出していきたい。
新しい船出は簡単ではないが、ワクワクする。