CDA須谷CEOに聞く、インタビューシリーズ第2弾。
キッチンカー革命を巻き起こしたCDAの次なる一手を掘り下げていく。
↓↓↓前編(第1弾)はこちらから読めます。まだの方はぜひ先に読んでください。たくさんの方から反響をいただきました。筆者が聞きたいことが多くのサポータの知りたいことだったんだなあと感じました。
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「美味い」を担保する絶対的な方法
CDA参入後のスタジアムグルメの何がすごいって、どれもが全部美味しいこと。有名なアウェイの名店でも、あくまでも店舗個別の話だが、こちとら全部。全部。
それ以前は、この手の「屋台」(キッチンカーでなく屋台ね)と言えば、たこ焼、から揚げ、ポテト、チョコバナナくらいしか思いつかなかった。
もちろん定番メニューが悪いのではない。ただ明らかに解凍のもの、調理から時間が経っているものでガッカリした経験も少なくはない。だからいつしか、スタジアムにおいて味を期待することをやめていた。じゃあコンビニでいいじゃないか、というスパイラルになっていた。
2回目の今回は、須谷氏のこだわりについて、思いを掘り下げてみたい。
ーキッチンカーってこんなに美味しいものなのかという概念が変わりました。ピザ窯で焼きたてのピザが出てくるなど私の常識外でした。
須谷「ありがとうございます。PIZZA VANさんですよね。あそこも美味い。本場で修行してこられた社長さんで、僕が知る限り最高のピザキッチンカーですよ」
ークオリティを担保するのが腕の見せ所というお話がありました。具体的にはどのように味を調べているのですか。
「僕自身が少なくとも一回はすべて食べています。食べていないところで出店しているところはありません。それも僕が、食べに行くとなると、一生懸命作ってしまうのでそれは本当ではなくなってしまう。なので、覆面調査です。お客さんと同じように並んで食べたところばかり。だから僕も本当に美味しいって言えるんです」
覆面調査。さらっと言うが、須谷のこだわりはやはり本物である。
1台のキッチンカーから、キッチンカープロデュース業への転身
須谷は15年前、1台のキッチンカーのオーナーとなって開業した。様々なイベントに自身で出店の経験がある。Jリーグの試合にも携わった。
徐々にキッチンカー仲間が増えていく。とても充実していた。
しかし、仲介業者にさまざまな課題があることが分かってきた。たとえば現在の日産スタジアムでは出店費用がかからないのに対し、足元を見られ高額の固定費を取るというイベントも少なくなかった。
また主催者や仲介業者のキッチンカーに対する扱いは目にあまるものがあった。「業者」であり「パートナー」として見てもらうことはない。こんなにイベントには欠かせない存在なのに、といら立ちを抑えきれなくなっていく。
キッチンカーの仲間たちの立場を守り、地位向上のためにできることはないか。そう思うようになったという。
もとから兄貴分肌で面倒見のよい須谷は仲間からの後押しを受けるようにキッチンカーを取りまとめる仲介業に参入し、CDAを創業。その際、自身がキッチンカーで調理することはきっぱりと辞めた。自分の商売というよりも、業界全体のために、公平性を保ちたいと思ったからだ。
あくまでも主役はキッチンカー
先述の通り、毎試合、日産スタジアムに出店したいという希望が募集枠を上回る状態が続いている。
「4月の横浜ダービーには、現状最多となる38台に出店していただきました。でも応募は120台だったんです。したがって弊社が選ばなければならない。確かにそういう立場です。けれどもキッチンカーあってこそのスタグルです。弊社もキッチンカーがいるから商売をさせていただいている。それを忘れてはいけないと社員にも口酸っぱく言ってており、「あれしろ、これしろ」などという態度はありえないんです」
今季から、キッチンカーの下に敷かれているシートの色が変わったこと、利用したサポーターの皆さんはお気づきだろうか。(須谷さん、すみません。言われて初めて、あっ!となりました)
従来こうしたビニールシートで思い浮かべるのは、水色が多いのではないだろうか。実際に今までは日産スタジアムでもそれが目立った。よそのチームカラーだからということではないが、主張が強く見栄えが悪いと考えた須谷は、各キッチンカーから理解と協力を取り付けたという。
「実は以前から見栄えが気になっていました。ただし強制できるものではありません。趣旨を皆さんにご説明して、皆さんが用意してくださったということ。一緒にいい空間を作っていただいていますね。感謝しかありません」
こうした気づきも、須谷の現場主義から生まれていると言っていいだろう。
完全に余談だが、CDAはスポンサーなので、須谷にはスタジアム内にVIP席が用意されている。しかしハーフタイムや試合後まで営業が続くため、彼はいつも場外でDAZNで観戦しているのだという。
「ゴールの歓声が聞こえてから、中継映像がだいぶ遅いのが悩みです(笑)」
こんなファミリーが集う現場だから、私たちサポーターも居心地の良さを感じているのだなと確信した。
キッチンカーとともに空間を作る
キッチンカーのことを大切にする須谷に甘えて、少し聞きづらいことも聞いた。
ー個人の偏見で大変申し訳ないのですが、私たちが子供のころは縁日の屋台といえばテキ屋などと呼ばれて、お行儀が悪い人や、もっと悪い人とつながっているイメージがありました。でも皆さんはすごく純粋に「ビジネス」をされていますよね?
「登録しているキッチンカーの身辺調査まではできないけれど、マリノスのスタッフによく言われたのは『味もいいけど、人がいい』というものでした。以前はお行儀が悪い方もいたのかもしれないけれど、マリノスさんに人柄を褒められるとは思っていなかったので嬉しかった。まあ、ちゃんとした方たちじゃないと、あれだけの美味しいものは作れないですよ!」
ーキッチンカーの配置も須谷さんが決めているのですか?場所でもめたりとかは?
「はい、全部自分が決めています。今は大階段の工事がありますよね。あれは結構痛いです。台数が減りますからね。初期は東西(ゲートのこと。西側はメインスタンドにもかかわらずイベントもないので閑散としていた)の格差は大きかったのですが、今は西に集客の強いお店を配置して「グルメゾーン」と定義した甲斐もあって、差がなくなりました。西に行きたくて、新横浜ではなく小机経由で来ることにしたんだよっていう方がいた。行動様式まで変えてしまうのだからすごいですよね。」
「場所でもめることはないです。試合後の営業ができるのはトリコロールランドの奥側の一部だけなので、15時に終わる場合はスイーツの店舗を残そうとか、そんなことを工夫しています」
ー超人気店はどこにおいても大丈夫?
「それはありますね。また調理に時間がかかる店舗は列をどこに作るかも考えなくてはなりません。都度、配置も変わらざるを得ません。でもそれがキッチンカーの魅力だとも思うんです。ショッピングセンターのフードコートだと代わり映えしませんよね。今後もどんどん進化させていきたいと思っています」
来るか、ラクレットチーズドッグ!?
4月末にTwitterで公開スカウトが行われた。
従来より埼スタで浦和のホームゲームに出店していたキッチンカーがレッズからの撤退を表明。数日後に同店のTweetに対して、須谷が「横浜来ませんか」と声をかけたのだ。
ーこれ、マリサポが続々と反応していましたよね。
「よくご覧になっていますね。自分がTweetしたらマリサポさんも援護射撃してくれるだろうという計算はありました。商材もいいし、見た目もおもしろいですし、日産スタジアムに引っ張りたいと思ったのは事実です」
すでにCDAと先方(Lupoさん)とのやり取りは進んでいて、焦点は横浜での営業許可が下りるかどうかだとか。
「おそらく近日中に横浜来ていただける予感はしています」
その後、実はLupoさんもすでにCDAのTweetに好意的な反応をしている。埼玉から通うことになるので、5千人上限でいいのかというタイミングはあるかもしれないが、実現したら即刻ソールドアウトさせようぜ、マリサポのみんな!!
「キッチンカー貸します」の恐るべき狙い
すでに質、量ともに充実しているのに、なぜ新たなキッチンカーに触手を伸ばすのか。そこにも須谷の非凡なる考えがあった。
「大木屋さん(肉のエアーズロックの異名をもつ名店。もとは都内で店舗営業)がキッチンカー出店したこと、実はキッチンカー業界では快挙だったんです。こういう名店にぜひキッチンカーで出してほしかった。なので、キッチンカーをもっていない会社にいろいろ声をかけさせてもらっています。弊社は車両をもっていますので「お貸しするのでやってみませんか?」ということ」
ーなるほど、新規掘り起こしに貸すという作戦は有効ですね!いくらぐらいで貸すものなんですか?
「無料です」
ー!! さすがにウソでしょう?
「本当です。わざわざ来てもらっているので。そんな名店がやれば絶対売れるじゃないですか。だからいいですよ、と」
この理由がすごい。
「マリノススタグルですでにレギュラーになってくださっているキッチンカーはいっぱいいます。でも彼らにもあぐらをかいてもらっては困ります。緊張感をもってもらいたい。なのでキッチンカー業界の外からトップに出てもらいたいんです。そうすればまた競争が働くしおもしろいかなと。これも自分自身の公平な立場があればできること。慣れによって衰退させたくないし、もっといいものを作りたい」
何より須谷自身があぐらをかくつもりがないことに絶句していたら畳みかけるように波状攻撃を受けた。
「横浜元町にある有名なフランス料理店さんも出たいと言ってくれています。中華街も今後可能性あるかもしれません。キッチンカーを貸し出すこと、用意することもあまり聞いたことがありません。でも売れますし、売れてくれれば、私どもも潤うわけですし、キッチンカーとの信頼感がより大切です」
仲川輝人がいるのにエウベルと前田大然と樺山諒乃介を補強して、さらに全員をスタメンで出すという恐ろしいことを、須谷は本気でやっている。
キャッシュレス、行列問題の論点
5千人上限の今はともかくとして、これが再び50%上限となり、以前のような活況を取り戻したときに、行列の待ち時間の話題は避けて通れない。
その一つとして、モバイルオーダーで、事前予約をする仕組みがマリノス主導で導入された。ただし作り置きはできない(店側がそれをよしとしない)ものが大半なので、あくまで列に並んでくれている人の分のうち、一部が事前予約者の手に渡る「ファストパス」のような発想だ。
またキャッシュレス導入によって待ち時間の短縮を図るべきという意見も出たが、須谷はそれも解決策ではないという。
「待ち時間の最大の要因は調理時間です。提供数には限界があります。何度も言うように料理のクオリティが命なので作り置きはしたくありません。ですから仮にカード決済、Suicaを導入してもボトルネックは解消しません。キックオフの3時間前から営業して提供できるマックスは決まってしまっているのです。列解消には、店舗数を増やすしかありません」
「キャッシュレスの話は、マリノスさんとしても進めたいと言っている。でも手数料は誰が負担するかという大事な話が置き去りになっています。3~4%と言われる手数料を薄利でがんばっているキッチンカーさんに問答無用で押し付けることなんてできません。そのキャッシュレスと待ち時間が関係ないことも含めて矢野さん(横浜FM運営担当)にもお伝えしています」
ー個人的には今や、列が少ない店にいっても大満足できることが分かったので、行列への抵抗は減りました。が、初心者、ライトサポーターにはちょっときついかもしれません
「先ほどのモバイルオーダーもそうですよね。もとから並んでいる人の待ち時間が増えることを考えると、公平性ってなんだろうと。これに答えはないです。これからも試験は続けてていきますので、皆さんにも考えていただきたいし、意見もぜひ聞いていきたいですね」
ー1つ1つ改善ですね
「細かいことたくさんあります。今年から西ゲートにもゴミ箱が設置されるようになりましたが、これも私たちからマリノスさんにくりかえし要望して実現したことです。美観を損なううえに、産業廃棄物なので処理もキッチンカーにお金がかかってしまいます」
ースタジアムの中のゴミとまとめてもらえればいいだけですか…?
「それに気づいていただけなかったというか、目をつぶってしまっていたところはあったかもしれません。でも矢野さんは、真摯に受け止めて動いてくれます。私たちへのリスペクトを感じるのでとてもやりやすい。だからこちらも全力で応えていきたいと思っています」
一旦仕組みを作っても慢心しない須谷がいる限り、スタグルの進化は止まりそうもない。キッチンカーもマリノスファミリーとして迎えてくれたことが嬉しかったし、一緒に良くしていきたいということを、繰り返し語っていたのが印象的だ。
さて最終回となる次回は、CDAが描く今季の到達点、これからの目標などをお伝えする。水曜はマッチデーなので、木曜以降にアップ予定です。