天野純は、すごいゴールしか決めない。またも、その説が証明されたようなゴールだった。山中亮輔の正確だが、速いクロスを左足で合わせる美意識の高いボレーシュート。美しさで圧倒しているマリノスが前半のうちに勝ち越すのは当然のようにも思えたものだ。
さらに、「前半45分を終わって、3−1」。一旦はセットプレイのミスから同点に追いつかれるものの、畳み掛けるように相手を突き放して、後半はゲームを落ち着かせるようなコントロール。
たぶん出来ていたと思う。悩める齋藤学が、PKに強い元チームメイトの六反勇治からPKを決めてさえいれば。
そんな試合運びで勝利していれば、またこのチームは「強かな強さ」を身につけたであろう。主将のゲームを決定づける今季初ゴールとともに。
でも、結果論だと思う。学が自ら得たPKを学以外に誰が蹴れただろう。唯一可能性があったとするならウーゴ ヴィエイラだが、彼はベンチスタートでピッチにいなかった。いや、ウーゴであっても、学の苦悩を間近で見ていればこそ俺が蹴ると言わなかったと思う。
したがって、学は蹴る以上、酷かもしれないが、決めるしかなかった。PKを決められるのは蹴る勇気を持ったものだけだと言ったのはロベルト バッジョだが、その上で重圧に打ち克つことができないと、決めることはできない。
学の貢献は今更語るまでもない。この試合でも、ボールが学を経由する率は極めて高かった。しかしながら、アタッキングサードの入口で学が触っていることは、つまりフィニッシュの仕事に絡むのを遠ざける事にもなる。学が最前線よりちょっと前で存在感を放てば放つほど、チームの攻撃は一定うまく行き、学のゴールを狙う機会は減るのではないか。
とまれ、PKだけでなく、50分過ぎのショートカウンターも含めてそのどちらかを、学は決めなくてはならなかった。それでゲームは終わっていたのだから。あえて何度でも言おう、決めるべき人が決めていれば勝ったのだ。全ての試合でではないが、昨夜についてはそれは学の仕事だった。
試合内容は、よかった。中町公祐と扇原貴宏の中盤制圧は痛快きわまりなかった。マルティノスの先制点は何度プレーを見返しても、「マルティノスだから取れた」としか表現できない。
ほぼ清水のやりたい事を抑え込んでいて、チャンスを作る手数はマリノスがおよそ倍以上。
その分、鄭大世の同点ゴールは、6〜7本のパスを繋がれなのだと思うが、全部が遅く、緩かった。だから点を失ったことは妥当だったとしても、同点のまま試合を終わるのが妥当だったとは思えない。遠慮せずに、怖がらずにネットを揺らせたはずだから。だから、悔しい。
それも、広島戦に続いて、こんなストレスが2試合続いたのだから、余計に悔しい。それにACL圏内あるいはそれ以上の優勝争いとなると、2試合続けて、しかもホームで、こんな結末を続けてはダメだ。
これだけ魅力的にゲームを作れるようになってきたのだ。この程度の得点力のはずがない。
見方を変えれば、やはり齋藤学の一つのきっかけ次第。学が決めなければ、このチームは始まらないし、決めればムードは高まる。
齋藤学の初ゴールによる強力な推進力、通称「まなブースト」をまだ隠し持ったままでマリノスは悪くない位置につけている。
まなブースト、それでも発動の時期は近い。首位との勝ち点差は少しだけ縮まった。次だ、次。