自分で奪って、自分で持ち込んで、自分で打った。エリア内に二人、味方の選手が待ち受けているにもかかわらずシュートを選んだ。
学が呼んでいるのは見えていたにもかかわらず、だ。俺の持ち味は左足のミドルシュート。見ろ、これが名刺がわりの一発だ。
目立った結果を残したいというのもあった。この先発の機会を失いたくない。
松原健や下平匠、金井貢史といった存在が常に頭の隅にある。
意表を突かれたのはスタンドのファンばかりではない。GKの松井も虚を突かれ反応が遅れる。難しい左サイドの角度のないところから逆のサイドネットを撃ち抜く。あっけなく2-0に点差を広げて、イケイケの雰囲気はあった。チームもスタンドももう5連勝を確信してしまったと思う。
油断したわけではなかろうが僅かな緩みは、1ヶ月余りぶりの失点という形になって現れた。些細なファウルと、些細なマークのズレで、途中交代策が当たる形で菊地のゴールが生まれる。
再び1点差。まだ15分は残っている。流れは大宮へ、だが飲み込まれてはマズイ。直後のパクジョンスが、相手のプレスをいなしきれずに被決定機を招いた場面は、まさに飲み込まれたようなシーンだったと言える。不調にあえぐチームならあっさりと追いつかれていたかもしれないが、勢いは我にあり。そしてツキもあった。
浮き足立つことなくボールを保持し、3点目を狙うのか逃げ切りを図るのか極端に振れることもなく。
自信を持って、堂々とプレーする姿に、結局は早々に5連勝を確信するに至った。
もちろん76分の齋藤学の胸トラップがもう少し正確なら、あるいは89分、富樫敬真のエリア内でのプレーにもう少し落ち着きがあったならば、トドメを刺せていたかもしれない。だが「大過」はなく5連勝を達成したと言っていいだろう。
その陰には、先制点を生み出したのみならず守備での貢献が高かった学とマルティノスの存在がデカイ。また多少、接触をファウルに判定されてしまっていたものの、中町公祐と扇原貴宏のコンビは見事だ。今これほど攻守に効いているボランチコンビが他にいるだろうか。
マリノスのカウンターは得点につながるのに、相手のカウンターは間一髪つながらない。それはマリノスには中澤佑二がいて、大宮にはいないからだ。大記録云々の前に、この日もことごとく跳ね返す姿は鉄壁と言うしかない。エリク モンバエルツ監督が賛辞を惜しまないのは、単に守備が堅いから、身体のケアに時間をかけて万全の体制で臨むから、などということだけではない。
今なお、向上意欲が一切衰えないからだ。エリク監督からセンターバックに求められる繋ぎ、ビルドアップ、はっきり言えば不得手な部分だったことについても、彼は向上に取り組んできた。
この日も、数は多くないが、扇原顔負けの正確な縦に長いパスでチャンスを演出した。先制点につながって、ウーゴへの長いパスも中澤の思い切りの良さが呼び水となってのものだった。
ただし、140試合連続のフルタイム出場という記録よりも、マリノスのタイトル獲得にこだわる39歳。もう今年か、せいぜい来年までと思うしかない。
若手に負けたくないという強い気持ちがある。同じような強い気持ちがこの日のヒーロー、山中亮輔にもある。
役者がまた一人増えた。日替わりヒーローがまた登場したのだ。つまり、またも学ではなかった。
5連勝だが、上位も順当に勝っている。まだ順位をとやかく言う必要はないが、前半戦で勝ち点32は近年で最高だ。まぐれの連勝ではない。内容とともに、気持ちとともに、成長とともに。