展開はゼロゼロだったが、このまま終わる感じはしなかった。DAZNのハイライトを見ると、驚愕するほど、フルボッコに攻められているがペースを握っていたのはマリノスの方では。
齋藤学のミドルシュートが林卓人の横っ跳びに防がれた83分も、きっと何か起こると思っていた。しかもこの展開なら1-0が妥当で、0-1はよほど不運なことでしかないと、そう思っていた。歓喜の約30秒前だったと思う。
起点は、ロングナイスパス連発の扇原貴宏が天野純に送ったパス。これを天野は利き足の左足でダイレクトにはたく。
少し浮いたボールを、富樫敬真はヘディングで返した。やや強く弾ませる。敵の足が届かないように。たぶん浮かせるつもりはなかったパスは、最高のリターンで帰ってきた。
その時、天野の頭の中にゴールまでの道筋が見えた。利き足は関係ない。より確率の高い右足で振り抜けばいい。
狙った、と言われても、本当かと疑いたくなるほどの正確なショット。林でも、誰でもあれは届かないよ。
88分の先制点。「自分ではトップ下の選手だと思っている」プロ初ゴールをそのトップ下で記録したことにプライドを垣間見せる。そう、顔は優しいが、やや感情的なほどに実は闘争心と負けん気が強い。「中村俊輔の代役」だった去年の開幕戦は何もできなかった。試合のメンバーに絡めない日々が続くと、移籍も本気で考えた。
だが天野の運命を変えたのも、尊敬する俊輔と同じ左足だったのだ。天皇杯で見せたアディショナルタイムでの決勝点が彼の自信となり、チームメイトも彼を認めるようになった。それを新潟、G大阪と2試合続けたのだから尚更のことだ。
今年は代役などではない、開幕から15試合フルタイム出場。中澤佑二、飯倉大樹と並んで、攻撃的なポジションでそれだけの信頼を勝ち得ていることに意味がある。運動量も1番だ。守備での貢献も高いし、セットプレーも安心して任せられる。
それでも、彼にはゴールだけがなかった。それを、どうしても1点が欲しいチームのために、アマジュンが決めた。天皇杯とはまた違うリーグ戦初ゴールだ。
歓喜のち、焦れる4分ほどのアディショナルタイム。弾き返すの得意な22と4のナイスコンビ。帰ってきたコンビ。
ピーターウタカは強くて危険。だが久しぶりに味わっただろう。Jリーグ二、俺ニ吹キ飛バサレナイDFガイタカ、俺ウタカ。
室屋成は再三再四、マルティノスを手を使って止めていた。マルティノスはとてもイライラしていた。だが、あんなプレーがいつまでも許されるはずがないと思っていた。マルティノス自身の鉄槌ではなかったが、ウタカを封じきれないながらも我らは勝った。
相手のシュートミスに助けられた感はある。冒頭のオフサイドも狙って取ったものではなさそうだ。前半ATのウタカのラストパスを大久保が外すとは。だが中澤、栗原のシュートブロックは素晴らしかったし、飯倉大樹は堅実だった。
ほぼ全ての選手が持ち味を出せていたことが勝因と言えるのではないか。
ほぼ全ての選手。そう、齋藤学を除いては。
この日も、まだキレが戻っていないことは一目で分かった。突っかけて、失って、後から追って。怪我をした後に、強行出場したことが回復を遅らせているのかもしれない。彼が戻れば、連勝は続く予感があるのだが。
3連勝、5位浮上。おかげさまで大混戦。
代表活動で離脱中のメンバーがいる中で、次の試合も超重要。
また試合終了直前にどうしても1点が欲しい時があれば、俺らのAJの名を呼ぼう。劇的なゴールが持ち味のニクいヤツだ。