伊藤翔、飛翔。マルティノスの右足がクロスを蹴り出した瞬間はオンサイド。すなわち伊藤のポジションよりも、前に守備ラインがあった。
そこからしなやかに飛び出して、連敗のストレスをぶつけるかのようにヘディング。豪快にネットを揺らしてみせた。
だが、線審の判定がすべて。オフサイドに見えたそうだ。後半には同じサイドで甲府のドゥドゥを、ミロシュ デゲネクが押し倒した際にシミュレーションを取ったりと、今度はマリノスは助けられもしている。辻褄が合うとか合わないとか、あまりいい話題ではないけれど、そういうことになる。
この幻のゴール、わざわざ取り上げたくなるほど美しく、そして格別の価値があったのだ。
ここまでのマリノスのスコアラーを見てほしい。
ウーゴ2、バブンスキー2、マル2、中澤1、前田1、富樫1。そして、この日の決勝点を加えた金井貢史の2。以上、全11得点だ。齋藤学も天野純もいない現実。
そこに9試合ぶりのFWの得点として伊藤翔のファインゴールが刻まれたならば。野球に例えるなら、筒香嘉智や中田翔のアーチこそが、味方に勢いをつけるではないか、と。しかし、実際には、ミロシュの浅い外野フライだったが金井が好走塁でホームインという犠牲フライのような決勝点だった。あぁ、野球を出したから、かえってわかりにくい…。
1点を取った時間が良かった。前半のアディショナルタイム。で、問題は2-0にする気があったかどうかということ。これ、無かったとしたらこの日はたまたま勝てただけという結論にしたい。相手の攻撃力に迫力不足を感じたとしても、1-0で残り45分。逃げ切らんとすることに軸足があるのはどうなのか。
2-0にして、試合を決めに行かなくていいのか。いや、もっと良くないのは、そのポリシーがはっきりしないことだ。攻撃陣は攻撃を、守備陣は守備を優先していた場合に、だいたいは悲惨な結末を招く。
この日、大過なく1-0で逃げ切ったのは運が良かったから。そのほうが「実力の現在値」が露呈していいのではないだろうか。
マリノスに限らず、いやマリノスはまだマシな方かもしれないが、Jリーグにはリードした時の戦い方が危なっかしいチームが実に多い。
2-0は危険なスコアとか、誰かが言ったものだから、世界のサッカーシーンと比べて、リードを追いつかれる、あるいは逆転される脆弱な強者が多い気がする。統計を取ったわけではないけど。2-0は、プロならば追いつかれてはならないスコアだ。セーフティな戦い方というものがある。
そんな危なっかしさで取れるはずの勝ち点を落としているようでは、やはり上位には食い込めないだろう。
あれ、まるで甲府相手に引き分けたみたいになってるが、でも感じたフラストレーションの正体は言い当てているのではないか。
ともあれ、3連敗でストップ。エンブレムを3回叩くのは、背番号3の松田直樹へのオマージュだと言ってはばからない金井貢史、カッコいい。
5勝1分5敗の9位。11試合で11得点、11失点。平凡で中庸そのものの成績。よーく似合う成績となってしまっている。
しかし、首位・浦和、2位・G大阪はともに勝ち点22であり、わずか勝ち点6差しかない状況とも言える。混戦、ここに極まれり。
連敗を抜けたら、次は連勝の始まりだった。そうであってほしい。