雰囲気は良くなかった。支配すれどもゴールは奪えず。ボールは回っているのにフィニッシュまで辿り着かないからだ。
そんな折に、先制点を奪われてしまった。もう間もなく試合に入ろうと、二人はタッチライン際にいたのだ。伊藤翔とウーゴ ヴィエイラ。一時はキプロスまたはギリシャに移籍秒読みと言われたウーゴが、ビハインドになった瞬間に投入されたのである。
筋書きが決まっていたかのようだった。
投入されて4分だったか。扇原貴宏のアーリークロスに反応していたのはウーゴが一番先だった。
マークはこう外せ。ユウキ、見ておきなさい。
そしてヘディングは下に叩きつけるように。
教科書に掲載されそうな美しいゴールで、ネットを揺らす。熱狂と安堵が混ざったような、ウーゴコールが巻き起こる。観客数1万少々のうち、7割か、8割かは分からないが、とにかく凄い音圧だった。
役者が違う。
ちょうど初老のストライカーこと、三浦知良がピッチを離れた後のことだった。
仕留めきれないことにはだいぶ問題がある。結局は、延長前半にウーゴが獲得したPKを、伊藤翔とのジャンケンを制したウーゴが蹴り、止められたところにウーゴ自身が詰めて勝ち越し。この1点のみで、どうにか2-1で120分の死闘を制することとなった。ゲームを支配することと、ゴールを奪うことの間には隔たりがあるのだ。その隔たりを埋めるのが、ストライカーの仕事であり、優れたストライカーには高い賃金が支払われる。
この夏、ウーゴを失っていたらどうなっていたかを想像させるゲームだった。
それ以外はがっかりした場面も少なくない。長い中断明け、蒸し暑さなど難しい要素はあったが、でも大津祐樹をはじめ、ユンイルロク、遠藤渓太らが、J2のサブ主体チームに違いを見せられなかった事実はとても残念なことだ。
山中亮輔の足が完全に止まっていたのは、コンディションの問題だけなら救われるがよもや怪我などでは…。最後は徹底的に狙われて、しかも走り負けていた。ボールを支配すれども…になってしまったのは、山中の「実質不在」状態の影響が大きい。
横浜FCが相手だからどうこうというのは試合が始まってしまえばあまり関係がなかったと思う。ロシア地方でこの夏に流行した4人目の交代という珍しいものを見たことくらいが、いつもと違ったことかもしれない。
負けたら終わりの天皇杯で、前回ファイナリストとしての面目を保ち、それに11年前に三ツ沢で敗れた同じ本拠地を持つチームとの対戦を制した。
ウーゴ ヴィエイラが居なかったら何も語れない。ただ淡々と結果を残すエースストライカーとしての矜持。さらにサポーターを煽ってみせる闘争心と、相手チームのレジェンドと笑顔で握手する人柄。
一言で言えば、惚れ直してしまったのである。ウーゴの心がどっちに傾いていたか本音は知らない。
でも残って良かったと言わせるような応援を今後もしていきたいと、本気で思った。
契約延長、早よ!